地方の中小企業が取るべき採用手法とは?【採用賢者に聞く 第31回】

地方の中小企業は学生の数が少ないなか、学生からの認知度はそれほど高くなく、厳しい採用活動を強いられています。地方が抱えている、“ならでは”の採用課題や、その上でどのような採用戦略を立てるべきかを、地方都市・札幌で38年にわたって採用コンサルティングを提供している、株式会社HBNの代表取締役・廣崎匡氏に解説していただきます。
株式会社HBN 代表取締役社長 廣崎 匡氏 札幌市の企業を中心に、人事・採用・経営などのコンサルタントを行いながら、数多くの斬新かつ画期的な商品開発に取り組む。代表的な商品は業界初の会社説明会をWEBで生放送する『就活LIVE』など。2007年からダイヤモンド・ヒューマンリソースの北海道地区の加盟企業として、北海道の企業を中心とした採用活動の支援事業を幅広く展開。2017年には「ふるさと就職応援ネットワーク」(F-NET)にも加盟し、全国にサービスも提供している。2021年には北海道の就活生と北海道の企業を繋ぐ就職サイト「ジョブキャリ北海道」を開設。現在、札幌学院大学キャリアドバイザー、北海道医療大学キャリアアドバイザーなども兼務。このほか、北海道の多くの大学で就職講演を行っており、多くの就職・採用の関係多から高い評価を得ている。 |
採用担当者が兼務で忙しく、募集は従来どおり「ナビ」任せ

地方の中小企業は採用活動に課題を抱えているのでしょうか?
一般的に、大きく2つの課題があると思います。
1.人的パワーが足りない
大手企業の場合、人事部の中に採用専任者がいる、という体制が多いと思うのですが、北海道の中小企業の場合はほとんどの企業が採用専任者を置くことは組織的に難しく、総務部などが兼務している状況です。そのため、採用だけに時間を割けず、インターンシップを実施したくてもそこまで手が回らないという企業も少なくありません。
2.新卒採用のノウハウの欠如
新卒採用において、経営者の理解がないところと、採用ノウハウが欠如しているところが大きいですね。昔はナビサイトに掲載したら、それなりのエントリー数があったので、エントリーをしてきた学生を選考にかける、という比較的単純な採用フローで問題ありませんでした。
しかし、近年はプレエントリー、インターンシップ、本エントリー後のエントリーシート提出、会社説明会、グループディスカッション、適性検査など、細かいステップがたくさんあります。それにともなって、ナビサイト管理のための工数は増えているのです。
また、それぐらい丁寧にケアしなければならないことを、認識していない企業がまだ多いのも実情です。北海道エリアでの22卒採用活動について、ある代理店が行った調査によると、セミナー(説明会)参加者15人のうち、採用に繋がるのが1人という歩留まり率。これは、丁寧に採用活動して、やっとこれくらいの数になるということを示しています。
「知名度がないなら、ナビサイトに載せておけばいい」という従来の発想のまま、就職市場のトレンドに対応できていない点も大きな課題と言えるでしょう。
地方の中小企業における採用活動の特徴や、共通するパターンはありますか?

基本的には、地方も中央も、行うべき採用活動の内容は変わりません。ただ、地方はお金と手が回らないという状況にあるということです。
数年前はIS募集のプレサイトは無料サービスでした。しかし、昨今では学生とのリアルな接点を求めてISのニーズは高まり、プレサイトが有料になっても使わざるをえない状況です。さらに3月解禁のグランドサイトも別途料金がかかるので、採用コストがかなり高額になっています。
現在大手就職サイトではIS募集プレサイトのシステム利用料だけで年間約120万円(定価)はかかり、しかも北海道の中小企業の場合はISから内定までつながる学生はごく一部です。2~3人採れればいいという中小企業は、結局グランドサイトだけに参画する企業も多くなっています。すると結局、学生への知名度を上げられず、エントリーがさらに少なくなる、というジレンマに陥ります。
このような状況を踏まえて、私たちがお客様からご相談を受けたときは、弊社が運営しているジョブキャリ北海道をオススメします。このサイトはプレサイトと本サイトを統一しており、安価で提供しています。そのため、プレサイト参画とIS実施を両方できるのがメリットで好評を得ています。ISに取り組む企業が増えている以上、どうしても同じ土俵に立つ必要があるからです。
採用のメカニズムに則り、ステップを踏む

地方の中小企業が採用で陥りがちなミスはありますか?
大手ナビサイトに掲載すれば採用できる、という認識のままで止まっていることでしょうか。何度も言いますが、ここ数年で採用市場はトレンドが大きく変わりました。一昔前まで100名のES提出があった道内の人気企業でも、2021年は20名、2022年は10名ほどに減っています。知名度があっても、採用のメカニズムを理解して、企業独自の「採用力」を付ける努力をしていかないと学生は集まらないですし、1社に決めてくれないという「選ぶ採用から選ばれる採用」という時代になっているからです。
採用のメカニズムとは、募集から内定までの流れなのですが、まずは、<広報>のフェーズで、学生に「知名」「認知」を行い、「興味」「関心」を持ってもらうこと。そこから学生をISや説明会に<動員・接触>するフェーズに移ります。ここで、企業のことを「理解」「共感(なんとなくいい会社であることを頭で理解・納得)」してもらい、ようやく<マッチング・選考>のフェーズに入ります。
その後、選考などを通じて十分に「共鳴(この会社は自分にピッタリ、この会社にしたいなど心から理解・納得)」してもらい、<内定>のフェーズで「内定」を出すことが大切です。共鳴がなければ、学生は内定承諾してくれません。そして、「内定者フォロー」を続けて、ようやく入社につながるのです。
学生を惹きつけていくメカニズム

採用成功にスクリーニングは大切ですが、それは人が集まってからの話で、大量の応募がある大手企業に求められることです。
対して地方の企業に求められるのは、より多くの学生と会える機会を能動的につくり、その場で学生を惹きつけることです。今は学生が企業を選び放題なうえに、競合企業も増えています。ある大手ナビサイトは、2010年ごろは約300社ほどだった掲載が、2022年現在では約1,000社に膨れ上がっています。選考のチャンネルも、オーディション型のナビサイトだけでなく、オファー型のメディアやツール、リファラルなど、どんどん拡がっています。
そのようななか、選ばれる一社になるためには、採用のステップを丁寧に踏んで、振り向いてもらうしかありません。それは恋愛と同じで、引く手あまたの学生が自分のことを好きになっていないのに、いきなり交際を申し込むようなものです。つまり、断られるのは当たり前だと言えるでしょう。
狙うは、地元志向の学生が多い私立の総合大学

都心と比較し、地方の採用におけるデメリットを教えてください。
北海道に限って言うと、札幌に関しては市内に私立の総合大学が多いため、学生の数のデメリットは少ないほうです。ただ、函館、釧路、北見、旭川などは母集団形成が難しくなります。そのようなエリアでは、職種によっては、高校生の頃から奨学金でバックアップするといった企業もあります。長期的な視点で、結びつきを強めるほか、エリアを拡大するなどをしていかなければ、かなり厳しいと言えるでしょう。
また、コロナ禍で一気に進んだオンライン就活は、地方の企業に深刻な影を落としています。学生たちが気軽に首都圏の企業の話を聞く機会が増えたため、地元の企業との待遇に歴然とした差があることが明白になります。道内の企業は、給与水準が都心に比べて低いだけでなく、未だ休日が100日以下というケースもあります。これは、どうしても不利に働きます。
以前は、待遇で見劣りしても、地元に戻りたいというUターン・Iターンのニーズを取り込めたのですが、今ではテレワークで勤務地を問わない企業も首都圏にはあります。特に、IT業界ではテレワーク実施率も高いので、本気で待遇格差の是正を進めなければならない時期にあると考えます。
逆に都心にはないメリットや、採用活動に生かせる資源としてはどのようなものがあるのでしょうか?
メリットは、地元志向の学生の母集団をつくりやすいことです。北海道の場合、道内の私大文系の学生には地場就職したい学生が多い傾向にあります。そこを狙えば、可能性が間違いなくあるでしょう。
また、地元企業ということもあり、学校とリレーションを取りやすいはずです。学校とのリレーションを高めていれば、学内説明会に呼んでもらえるなど、学生との接点を増やすきっかけになると思います。
地方のデメリットやメリットを踏まえて、地方の中小企業はどのような採用手法を取るべきなのでしょうか?
繰り返しになりますが、ナビに載せていればいいという考えは捨てて、学生に会うチャンスを能動的に求めていくことが大切です。先ほど、説明会に15人来ても、内定まで残るのは2人くらいで採用できるのは1名しかいないという例を挙げました。つまり、15人来れば、1人は採用につながる可能性があるということです。優秀な採用担当者のなかには、合同説明会に来た学生の半分を説明会まで引っ張れる人もいます。そのためにも、学生を惹きつけるプレゼン資料やプレゼン能力をなども是非、高めてほしいと思います。採用戦略=採用広報活動×採用実務活動です。
つまり、採用は広報活動であり営業活動であり、就職先としての「知名度イメージ」や「採用ブランド」づくりをどのように行うかを是非考えて頂ければと思います。
採用活動の前提を抑え、出会いのチャンスを広げる

地方の中小企業が採用を考えるとき、欠けているものや大切にしてほしいポイントはありますか?
企業が100社あれば、課題は100通りで、個別の解決策が必要です。ただ、前提として抑えるべきポイントを、いくつかご紹介します。
●採用計画の立て方
新卒採用を、何のためにやるのか?それは、企業が持続的に成長するためという原点に立ち返り、人材要件を組み立てる必要があるということです。残念ながら、道内の企業は未だに欠員補充という認識が強いのが実情です。新卒入社の社員に何を期待し、どのように育てていくのか、先を見通した採用計画を立ててください。
●人材要件の設定
求める人物像は、イメージが先行すると、理想だけになってしまいます。実際に活躍している社員のなかで、その理想の要件をすべて兼ね備えた人材は少ないでしょう。求める人物像を決めるときは、逆に、NGの要件をつくったほうがよいと思います。そのなかで優秀さを選考で見極めていけばよいのです。
●インターンシップは実施すべき
採用競争が激化しているなか、他の企業が実施していることを考えると、やらないよりやったほうがよいでしょう。お客様からは「ISは内定に結局結びつかない」という声がよくあがるのですが、結び付けられるように、採用力を高めることが大切です。最終的には、ISに来た学生10人から2~3人を採れるようになることを目標に、一歩ずつ前進していきましょう。
●インターンシップの告知方法
ナビサイトを使う方法のほかに、大学とのリレーションがあれば、大学経由で学内にポスターを貼ってもらい、学生を募集する方法も有効です。
このほか、インターンシップ協議会に加盟するのもいいでしょう。協議会は大学が持ち回りで運営しており、加盟すると協議会からISの逆オファーがあります。受け入れられる学生の数を伝えると、大学側がドラフト会議のように企業を指名して、学生を送り込んでくれるというシステムです。コストを掛けずに学生と接点を持てるというメリットもあるので、ぜひ検討してみてください。
●学生のハードルを下げる
採用の成功は=学生と会う=ことです。会うこと前提に採用フローを作ることが大切です。そのためには、学生と会う上でハードルに感じるものを取り除くようにしましょう。
たとえば、早い時期から学生に、履歴書、成績診断書、健康診断書を用意させ、さらにエントリーシートも提出させる、というのはスクリーニングが必要な大手企業の手法です。まずは、選考に応募してもらえるように「理解」「共感」を得られるように努めてください。履歴書が必要なら、二次選考のときに持参してもらえば良いと思います。
最後に、採用成功を目指す採用担当者にメッセージをお願いします。
採用を成功させるポイントは2つです。
- より多くの学生と会うための戦略作り
- 会った学生を惹きつける戦略作り
この2つです。そして、採用活動は「企業という商品を学生という消費者に売込む営業活動」です。これらを成功させるために、まず自社のリソースを分析しましょう。たとえば、予算、立地、人材、環境、人脈など・・・・です。足りなければ補う努力をして行きましょう。
採用において、大切なことは企業が持っている採用リソースをフル活用し、どんな企画をどんな時期に、どんな内容で広め、だれがプレゼンするなど、どんなやり方するかによって大きく変わります。
企業の見せ方や仕事のやりがい、面白み、奥の深さ、またはどんな先輩がいて、どんな会社の職場の雰囲気なのかなど深層理解を深める活動によって、たとえ、中小企業であっても、大手ではなく自社に決めてくれる・・つまり企業序列を破壊することができる奥の深い仕事であると言えます。また企業側から「最近の学生は志望動機が薄い」という声もよく耳にしますが、志望動機は“企業が与えるもの”です。つまり、それこそが採用担当の仕事で、採用力の根幹だと思います。ぜひ、学生と会う機会を求め、能動的に働きかけてください。
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