sonar HRテクノロジーが発信する、
採用と人事の情報メディア

専門家コラム

- Column -
専門家コラム

人気上昇中の理系学生。理系の採用スケジュールの勘所は?【採用賢者に聞く 第27回】

近年、技術職採用はもちろんのこと、それ以外の職種でも理系学生の採用ニーズが高まっています。理系学生が求められる背景には、どのようなものがあるのでしょうか?

トレンドを押さえた、理系の採用スケジュールの勘所について、株式会社アタックス・セールス・アソシエイツのコンサルタント・酒井利昌氏にお話を伺いました。

少子化の一方、理系学生が活躍できる職種は増えている

理系学生を採用したいけれども、苦戦している企業も少なくありません。人気が高まっている背景について教えてください。

一つは、少子化による影響で学生全体の数が減っており、それに比例して理系学生の数も減っていることが挙げられます。文部科学省がまとめた資料によると、理・工・農学分野の学部学生は、1999年(平成11年)をピークに減少しています。その一方で、高度経済成長期を支えた団塊世代の熟練エンジニアが世代交代の時期に入っており、技術職の採用ニーズが高まっています。これによって需要と供給のバランスが崩れている状況にあります。

引用:文部科学省「理工系人材育成戦略」本体より

もう一つは、企業がDX戦略など、デジタル重視の企業活動にシフトしていることが挙げられます。その実現のために、データやエビデンスをもとにしたロジカルシンキングを大学で鍛えられた理系人材に、大きな期待が寄せられているのです。これによって、それまで文系学生が採用の中心だった職種でも理系学生のニーズが高まり、ますます理系学生の人気が高まっています。

“就活モード”に入ることなく、プレ期で志望が固まる

学生の就活の動きは早期化していますが、理系学生はさらに動きが早い印象があります。理系学生の就活スケジュールにはどのような特徴があるでしょうか?

基本的な就活のスケジュールとしては、文系も理系もそこまで変わらないのですが、特徴的な部分をピックアップすると、3つあります。

(1)“就活モード”に入りにくい

まず理解しておきたいのは、文系学生と理系学生とでは、大学での履修のスタイルが異なることです。文系学生は、年次の低い段階でまとめて単位を取得することが可能です。そのため、年次が上がるほど時間に余裕ができ、3年次の秋には多くの学生が“就活モード”に入って、就活中心の動き方ができるようになります。

一方、理系学生の場合は、3年次の秋頃から、研究室での演習や実験、さらに卒業研究に向けて、学業がどんどん忙しくなっていきます。そのため、理系学生は明確に“就活モード”に入る時期がないと言えます。企業側は、そういった事情を踏まて、学業を優先できるように、長期休みや土日にインターンシップ(以下、IS)を設定するなど、選択肢を増やす配慮が必要です。

(2)志望する業界を早期に決める傾向

株式会社ディスコの調べによると、学生の志望業界は、3年次の1月1日時点で「明確に決まっている」「なんとなく決まっている」を合わせると74.5%であることが明らかになっています。つまり、学生の4人のうち3人が、3年次の年末までに志望業界を固めているということです。これを、理系学生の男子/女子でセグメントすると、「明確に決まっている」「なんとなく決まっている」と応えた理系学生は男子83.3%、女子77.5%と、いずれも全体より高い結果が出ています。

これより、文系学生より理系学生のほうが、志望業界をより早期に固める傾向にあると言えます。背景としては、理系学生のほうが大学で身につけた専門性を活かしたいという思いが強いためです。

出典:株式会社ディスコ「キャリタス就活 2023 学生モニター調査結果(2022 年 1 月発行)」より)

(3)できれば3年次の年度末までに終わらせたい

年次が上がるほど学業が忙しくなるため、早めに就活を終わらせたいという思いも働いています。比較検討や、視野を拡大することにあまり積極的でないのも特徴です。

このような学生の動きを受けて、企業側も早期に動いているところが多そうですね。

それは間違いありません。実は、3年次の年末までに文理問わず49.2%の学生、つまり約半数が「本選考を受けた」と回答しています。しかも、そのうちの13.5%が「内定を得た」という結果があります。理系に絞ると、理系男子は13.3%と全体の割合より下回るものの、文系男子12.7%よりも高い結果です。さらに、理系女子に至っては19.4%で、全体より5.9ポイント、文系女子12.3%より7.1ポイントも高くなっています。

つまり、動き出しが遅ければ、認知してもらう間もないまま、理系学生は就活を終了してしまう可能性があるのです。そのため、理系学生は、文系学生よりもプレ期に振り向いてもらうことがますます重要と言えるでしょう。

出典:株式会社ディスコ「キャリタス就活 2023 学生モニター調査結果(2022 年 1 月発行)」より)

プレ期が勝負の理系学生に、振り向いてもらう「2+1」の施策

理系学生とプレ期に接点を持つために、取り組むべき施策とその時期を教えてください。

直接的に取り組める施策は、大きく2つあります。

(1)7月~10月/理系学生に特化したISの実施

理系学生は、とにかく早期に接点を持ち、認知してもらうことが大切です。また、自分が研究してきた分野と就職企業の分野が関連するかどうかを重視していますので、プログラムも理系に特化し、学んできたことが活かせることをリアルに実感できる職業体験が効果的です。

このようなプログラムをつくるためには、そもそもなぜ理系学生を採用するのか(Why)を見つめ直し、求める理系学生の人物像(Who)を明確化し、その学生がどんなISのプログラム(What)を求めているかを考えることが大切です。

学生はISプログラムに学問的な専門性を求めているのに、企業側が提供するプログラムが業界や会社紹介に留まっていたなど、需要と供給がずれている場合が往々にしてあるからです。Why、Whoに関しては、社内調整が必要なため、専門家にファシリテーションを依頼するのも有効だと思います。

詳しくは、「若き採用担当の悩み②新卒採用の採用計画の立て方【第2回 採用賢者に聞く】

をご覧ください。

(2)10月以降/ダイレクトリクルーティングの活用

ナビサイトやISで集めた候補者集団に対する早期選考と並行して、それだけではリーチできなかった学生との接点を持つことを狙い、ダイレクトリクルーティングを活用するのも一つです。オファー型の逆求人サービスは、登録者が増加していますので、検討の余地ありと言えるでしょう。前年度の内定学生からのリファラル採用などもダイレクトリクルーティングの一つです。

もちろん、ダイレクトリクルーティングでも、採用目的(Why)、採用学生の人物像(Who)の吟味を経て、学生に届けるメッセージ(What)が定まっていきます。やり方(How)をいくら増やしても、このような採用活動の本質を押さえておかないと、コストだけが掛かり、期待するリターンが得られません。なお、長いスパンでよい人材を採用したい場合は、もう一つ施策があります。

(3)就活以前/大学とのコネクション強化

理系学生は、特に教授からの紹介も有効なルートです。研究に積極的に協力し、コネクションを強化しておくのは、長期的な投資となるはずです。まずは、目先のTAKEを考えず、GIVEすることに注力しましょう。もちろん、採用にかけられるコストやリソースは企業により異なります。それも踏まえたうえで、検討いただければと思います。

スケジュールは文系より1ヶ月程度早い。学生が求めている情報をタイムリーに提供する

理系学生の採用スケジュールは、ある意味、短期決戦のような側面があることがわかりました。どのような情報を提供するかも、重要になりそうですね。

そのとおりです。企業にはいろいろな側面があり、そのすべてをメッセージに詰め込もうとすると、全体としてぼやけてしまい、結果何も伝わらないということはよくあります。一度に相手に記憶してもらう量には限界がありますし、1回の接点で最大でも3つまでに留めておくのが良いです。

また、学生側は、就活の時期によって求めている情報が変わります。理系学生の場合、就活初期は「企業の将来性」を企業選びの基準にしている傾向にありますが、内定承諾の決め手は「社会貢献度の高さ」というケースが多いです。時期に応じて、いつ、どんなメッセージを出すかは非常に大事なことです。

株式会社ディスコが2021年9月に実施した「2022卒 理系学生の就職活動(専攻分野別)」の調査で、「就職先の企業を選ぶ際に重視する点(1月時点)」「就職決定企業に決めた理由(7月時点)」を知ることができるので、確認しておいても良いでしょう。

いずれにしても、理系学生は文系学生より内定獲得のスピードが1ヶ月ほど早いです。採用活動の早期化を煽るわけではありませんが、早めにアプローチしたほうが、振り向いてもらえる可能性が高まりますので、採用スケジュールを検討する際の参考にしてください。

この記事をシェアする

この記事の著者

酒井 利昌
株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ
採用コンサルタント
https://attax-sales.jp/

『いい人財が集まる会社の採用の思考法』著者。学習塾業界、人材サービス業界を経て、現職。営業コンサルタントとして現場指導に従事するとともに、採用コンサルタントとして活動。採用がうまくいかないことが成長のボトルネックとなっている企業が支援対象。 独自の営業・マーケティングノウハウを転用した採用力強化メソッドは、15ヶ月間、採用できなかった中小企業を2ヶ月間で成功に導くなど実績多数。「人の力を源泉に成長したい」全国の企業からのオファーが絶えず、無料で採用相談を受けることをライフワークにしている。