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コミュニケーションのルール化がコツ?「パワハラ防止法」対策で実施したい4つのセオリー【識者に聞く 第六回】

2022年4月より「パワハラ防止法」が義務化され、中小企業にも防止措置が求められるようになりました。しかし、どのような対応をすべきかわからないとお悩みの人事担当者の方もいるのではないでしょうか? そこで、企業の実践的なパワハラ対策の研修や施策のアドバイスを数多く手掛ける一般社団法人 日本メンタルアップ支援機構の代表理事・大野萌子氏に、「パワハラ防止法」の概要と、各企業が実施している対応のセオリーについてお聞きしました。

一般社団法人 日本メンタルアップ支援機構 代表理事
大野 萌子

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、公認心理師、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)がある。

まずは理解!パワハラを構成する3要素と6類型

2022年4月より中小企業でも法律的に義務化されたパワーハラスメント対策ですが、施行された社会的背景をお聞かせください。

もともとは、2017年(平成29年)3月に、閣議で決まった「働き方改革実行計画」の実行に端を発していると見ています。これを受けて、「働きやすい職場とは何か?」を各省庁で追求するような働きかけがありました。そのなかで厚生労働省は、社員のメンタルヘルスに着目。特に、うつ発症の裏にパワハラが隠れていることが散見されていたため、パワハラ対策に取り組んでいこうという流れになったと考えています。

改めて、パワハラとはどのようなものを指すのでしょうか?

厚生労働省は、パワハラ防止法の施行以前からパワハラについて注意喚起や問題がある場合は是正を促していました。今回の法制化では、次の3つの要素が含まれるとパワハラだと定義しています。

●パワハラの3要素
1. 優越的な関係を背景として、
2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた、
3. 就業関係を害すること。

(参照元)https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdf

また、パワハラにあたるケースとして、次の6類型を示しています。

●パワハラの6類型
1. 身体的な攻撃
殴る、蹴るなどで身体的に苦痛を与えるもの。

2. 精神的な攻撃
怒鳴る、否定的な言葉を浴びせ続ける、不必要に長時間叱責するなど、精神的にダメージを与えるもの。  

3. 人間関係の切り離し
その人にだけ連絡しない、重要なことを伝えないなど、コミュニティから外してしまう行為。物理的に勤務場所を隔離するケースも含まれる。  

4.過大な要求
明らかに終わる見込みのない物量の業務、高すぎる課題の解決を要求し、実現できなければ厳しく叱責するなど。  

5.過小な要求 たとえば、単純なコピー取りしか業務として与えない。事務の仕事で雇用されているのに、草むしりや網戸の清掃などを延々と課せられるなど。  

6.個の侵害 プライベートに過度に干渉してくる。

(参照元)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000189292.pdf

これらの定義や6類型は、法制化された後もそのまま引き継がれています。

今回の法制化によって、何が変わるのでしょうか?

その点が、実は曖昧なのです。パワハラに対する定義や6類型については、法制化以前と変わりがありません。そもそもこの6類型についても、例は示されているものの、個々のケースでの対応を求められ、はっきりとした基準は設けられていないままです。

何より、パワハラ防止法には罰則規定がありません。つまり、パワハラ防止法に違反したからといって、罪に問われることはないのです。しかし、何かあれば、厚生労働省からの勧告が来る可能性があります。勧告に従わないことに対する罰則はあるので、その観点で罪に問われる可能性があると考えられます。悪質であると判断された場合は企業名が公表されることもあり、社会的な信用を大きく失墜する恐れもあるでしょう。

さらには、従業員が労働基準監督署にパワハラ防止法違反という理由で訴える可能性も考えられます。これらの事態が発生すると、近年はSNS上で一気に拡散され、“炎上”するケースも多いので、企業にとって大きなリスクだと言えるでしょう。

パワハラに対する明確な基準が設けられないのは、なぜでしょうか?

パワハラは、それぞれの職場環境や人間関係によって受け取り方が変わるコミュニケーション上の問題だからです。たとえば、「優越的な関係」は、上司が上で部下が下とは限らず、先月配属された若い課長と、20年来の平社員だと立場が逆転するケースもあります。6類型の一つ「個の侵害」も、プライベートのことまで気を許して話せる関係性だったら問題ありませんが、その“程度(レベル感)”にはグラデーションがあります。言いにくそうにしているのに詮索したり、しつこく聞いたりすると、それは「個の侵害」にあたるでしょう。結局、相手がどう感じているのか、コミュニケーション不足でわからないことが、パワハラ問題の根本にあると考えます。これらを解決していくことが、パワハラ対策には求められます。

対策で取り組むべき4つのセオリー

パワハラ防止法の施行に伴い、企業には具体的にどのような対応が求められますか?

取り組むべきことは、次の4点に集約されると考えます。

  1. 周知

そもそも「“パワハラ”とは何か?」を全社員に知ってもらい、意識を改革することが必要です。具体的には、研修などを開催して周知していくことになるでしょう。しかし、研修で禁止事項だけを伝えてしまうと、社員同士がコミュニケーショをとる際にナーバスになってしまいます。そうさせないためにも、どういう対応すればよいのかをセットで提案することが大切です。

  • 相談窓口を設置

社員が困ったときに相談できる窓口を設けることが必要です。窓口業務は、大手企業だとコンプライアンス委員会などが、中小企業ですと総務や人事が対応していることが多いです。このほか、外部の機関に委託するケースもあります。ただ、それにはメリットとデメリットがあるので、ポイントをお伝えします。

〈外部に委託するメリット〉
窓口業務が減り、本来の業務集中ができる。社員にとっては、査定に響く心配がなく、プライバシーが守られるという安心感がある。  

〈外部に委託するデメリット〉
守秘義務の関係で、会社に相談内容が明かされず、改善につなげにくい。
  • 事後対応

相談があった場合、当然のことながらその改善に向けて対応する必要があります。当事者と面談する、どうしたいか話を聞く、それをもとに各所に働きかけるといったことが求められます。大切なのは、これらの対応をしっかり記録として残すことです。「言った言わない」のトラブルを防ぐのと同時に、対外的な証拠としても活用できます。

  • プライバシーの保護

大前提、とても重要なことです。相談者が相談したことによって、社内で不利益を被ることがないよう、しっかりとプライバシーを保護することが求められます。個人情報の取り扱い方などを、明確に定めておきましょう。

このようにパワハラ対策には、目を引くような即効性のあるプログラムはありません。一つひとつ着実な対応ができるように、体制を整えていく以外はないのです。

中小企業で、対策のための人員リソースが不足している場合、何かよい手立てはありますか?

すべての企業のケースを解決できるわけではありませんが、一つはOBを相談員として再雇用するという方法もあります。社内事情や風土をよく理解しているので、問題の把握や改善につなげやすいと期待することができます。カウンセリングについて、ある程度の知識を身につけてもらえたらベストかもしれません。

コミュニケーションのルールを自社でつくり、周知・徹底する

パワハラ防止法の対応・施策をする際に、注意すべきなのはどのような部分でしょうか?

まずは研修を全社員に受けてもらうことです。近年、パワハラという言葉や概念が独り歩きし、パワハラにあたらないことまで訴えられるケースが増えています。また、パワハラは先述したとおり、職場環境や人間関係によって各社ごとに基準が変わります。自社にとってどのような場合を「パワハラ」と考えるか、会社全体で意識をすり合わせることが大切です。周知も一回で終わるのではなく、人の入れ替わり、年度替わりなど、折を見て繰り返し実施することをおすすめします。

それと同時に、自社の中でのパワハラの基準を明確に設けることも重要です。

ある製造工場の事例ですが、もともとは、作業中、声が聞きとりづらいためボディタッチで気づいてもらうという方法をとっていましたが、肩に手を回すような触り方をする人もいて不快だという声があがったのです。そこで、「騒音の中で作業しているとき、相手に気づいてもらうためには、相手と体を離して、自分と近いほうの肩を軽く2回叩く」というルールを設けました。このように明確な、ルールを設けることで、この範囲までは業務、越えたらハラスメント、というお互いのコンセンサスをつくることができたのです。これらはケース・バイ・ケースなので、事業内容や職場環境によって大きく異なります。自社にあったルールは何かを、探して、一つひとつ丁寧に取り組んでいくしかありません。

「自分はこう思うけれど、相手は違うかもしれない」と考える風土を

最後に、パワハラ対策が目指すべき目標は、どこにあるとお考えでしょうか。

叱責するときは個の尊厳に配慮して別室で、という考え方がありますが、最近は「上司と二人きりになるのは嫌なので、みんなの前で構わない」という人も増えているとか。また、「(頑張らなくて)いいよ、適当で」という相手のことを思ってした発言が、「放置された」と受け取る人もいるようです。大事なのは、お互いがわかり合おうとする意識です。「今から〇〇についての話をしたいのだけど、別室がいい? それともこの場でがいい?」など、確かめることが大切なのです。また、不快な思いをしたときは、表情と言葉を一致させないと相手に正しく伝わらないから、気遣いは不要であるということも統一見解としておくことも重要だと考えます。自分はこう思うけれど、相手は違うかもしれないと、常に考えるような文化をつくっていくことが大切なのです。

万一問題が発生したときは、すぐに当事者に対して話を聞く機会を設けることをおすすめします。初動の早さが、会社への信頼につながります。問題が解決しない場合は、社会労務士や弁護士などハラスメントに詳しい専門家に相談し、きちんと誠意をもって対応していくことをおすすめします。

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大野 萌子
一般社団法人 日本メンタルアップ支援機構
代表理事

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、公認心理師、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)がある。