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若き採用担当者の悩み⑦「母集団の数が足りない」ときの原因・対策【採用賢者に聞く 第23回】

採用活動のキーのひとつとなる母集団形成。内定者数の目標達成や、よりよい人材を比較してジャッジするためには、ある程度の応募者数が必要になります。しかし、「母集団が集まらない」という悩みを抱えている企業・採用担当者が多いのも事実。ただしそこで、やみくもに数を集めることは、効率的ではないと株式会社人材研究所の代表取締役 曽和利光氏は言います。そこで今回は、母集団に関する根本的な課題と、その具体的な解決施策について、解説いただこうと思います。

曽和 利光 
株式会社人材研究所 代表取締役

リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験、また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や情報経営イノベーション専門職大学客員教授も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立

実は認識がズレているかもしれない? 母集団とは何か?

“母集団”が目標値に達しないという悩みは、採用担当者からよく聞きます。この課題の根本にある問題はなんだと思いますか?

大前提、何をもって“母集団”と呼ぶのか、その認識がズレているケースがよくあります。ナビサイトなどで学生を集めたとき、プレエントリーした集団、そのなかから本エントリーした集団、さらには説明会に参加した集団、選考まで進んだ集団などがあります。そして、採用担当者の多くは、説明会参加以降の自社の選考を本格的に受け始める学生たちを“母集団”と呼んでおり、それが少ないと悩んでいるようです。

しかし、私は、プレエントリーした学生を“母集団”と捉えたほうがよいと考えます。少なくとも個人情報を提供してもらっているので、こちらからアプローチすることもできるでしょう。もし、本エントリーした学生やその後の選考受験者などを“母集団”と捉え、それが少ないことが課題だとしたら、取り組むべきはエントリー率や受験率を上げることになります。

以上を踏まえた上で、本質的な課題は何か、今一度検証していただければと思います。

まずは手持ちのリストから。その後、網をかけるなら確度の高さに注目

本エントリーやその後の選考に進む学生数が目標値に達しなかった場合、どのような施策を打てばよいでしょうか?

考えられる施策は4つあります。順番にご紹介しましょう。

●1.プレエントリーした学生へのアプローチ

まずは、母集団そのものの数を増やす前に、手持ちのプレエントリー者のリストから見直してみましょう。一般的に、プレエントリーから本エントリーする学生の割合は3割程度と言われています。つまり、約7割の学生は、プレエントリーしたけれど、本エントリーしなかったいわゆる“未エントリーの学生”となります。もちろん、“未エントリーの学生”は志望度が必ずしも高いわけではありません。一括でプレエントリーしたケースもあるでしょうし、就活への意欲が低くて音信不通になったケースも考えられます。

しかし、学生たちは時期が変われば状況が変わり、意識も変わります。たとえば、第一志望に不合格した、決めきれなかったという学生が就活をリスタートさせることもあるでしょう。新たなプレエントリーを就活している学生全体から獲得するよりも、まず手持ちで情報を持っている約7割の本エントリーしていない学生にアプローチしたほうが、コスパがいいのではないでしょうか。実感値として、一括でプレエントリーして本エントリーしなかった学生は、大手志向の傾向が強いので、大手の内定を出した後に“復活”するケースが多いと思います。

実際、プレエントリーが例年の半分に減った企業があったのですが、本エントリーしなかった学生にロールでテレアポをかけたところ、結果としてプレエントリー全体の約6割の学生がエントリーしてくれたそうです。エントリー率が例年の2倍になったため、無事目標を達成できたという例もあります。最近の学生は電話嫌いと言われますが、就活モードの学生は企業からのよい知らせを待っているのでたいてい、電話に出てくれます。この例のようにエントリー率が2倍までいかなくても、アプローチすれば確実に本エントリーが増えてくる傾向にあるので、ぜひ試していただきたいと思います。

●2.辞退者への再アプローチ

「説明会の予約があったけれど、連絡なしでキャンセルされた」「二次面接を案内したけれど返答がなかった」このように、採用活動の過程で音信不通になってしまう学生が必ずいます。「ドタキャンで連絡もないとは、社会人として絶対NG」と採用する側は思うかもしれません。しかし、相手は学生。無礼なのは当たり前だと思ってください。むしろ、突然辞退したのは、他の選考が進み、引く手あまたで忙しくなったという可能性もあります。

先述した“未エントリーの学生”のように、その反応が時期や状況によって変わるのは、辞退者も同じこと。実際に再アプローチすると、「え!?音信不通にしてしまったのに、いいんですか?」と復活するケースが少なからずあります。そして、復活する学生は、就活への意識が高く、大手を貪欲に攻めたけれど今一歩届かなかった、というような優秀な学生である可能性が高いのです。

少なくとも、まだプレエントリーしていない、海のものとも山のものとも区別がつかない学生の集団から、新たにプレエントリーを獲得するよりも、早い時期からアクションを起こしていて、連絡が取れる辞退者に再アプローチするほうが、採用活動として優先順位が高いと考えます。

●3.ブルーオーシャンで母集団を新たにつくる

手元にある学生リスト駆使して、先述した(1)(2)を実施してもまだ学生が足りない、そうなったときは、新たにプレエントリーを獲得して母集団を形成する必要があります。自社に一度も振り向いてくれなかった学生に、声をかけていくことになります。人気の大学や学部の学生がいる海は、すでに競合他社に釣り上げられており、戦いの血で染まった“レッドオーシャン”です。もはや、そこに優秀な人材が残っている可能性は、非常に低いと言えるでしょう。

それならば、狙うべきは戦いの少なかった“ブルーオーシャン”です。それは、あまり企業に声をかけられなかったけれど、優秀な学生がいる領域。たとえば、首都圏の企業に人気なのは早慶MARCHなどですが、地方の国公立大学にも優秀な学生はいますし、就職すれば地元から上京することになるでしょう。就活がある程度進んでいるとき、早慶MARCHでまだ就職できない学生と、企業に声をかけてもらえなかった国公立大学の学生、どちらのほうが優秀な人材が残っているかというと、おそらく後者ではないでしょうか。

学部でセグメントする場合は、志向にビジネス特性があると思われている法学部や経済学部に人気が集まりがちです。ただ、私の経験上、他学部の優秀な学生と入社後の活躍に明確な差は出ないと感じています。理系に関しても、工学部と比べて、理学部は「学んできたことがビジネスから遠いのでは?」という企業側の先入観によって、狙われにくい傾向にあるので、いざアプローチしてみると優秀な学生がたくさん残っている印象です。あとは農学部もおすすめします。なぜなら、彼らが目指すバイオ系企業は狭き門なので、優秀でも就職できない学生が多いからです。このほか、文系の院生も“ブルーオーシャン”と言えるでしょう。

●4.スカウトメディアやリファラルによる採用

これは、1~3をすべて取り組んだ後の最後の方法だと思ってください。スカウトやリファラルによる母集団は、ナビなどで集めた母集団より合格率が格段に高くなります。一般的に、ナビで集めた学生の合格率が1%なのに対し、スカウトやリファラルは10%ほど。つまり、10倍濃い母集団と言えます。スカウトやリファラルは、一人ひとり探してアプローチし、集めていく必要があるため、ナビより労力がかかると思われがちですが、10倍濃い母集団ですから、ナビで集めた100人と、スカウトやリファラルで集めた10人は同質の母集団と言っても過言ではありません。場合によっては、多少手間がかかっても、スカウトやリファラルのほうが効率的なケースもあります。募集のチャネルによって、形成される母集団の質はまったく別のものになることを踏まえ、採用リソースを割くことがポイントになると思います。

ただ、4を最後の方法としたのは、採用担当者のスキルに左右される方法だからです。スカウトの成功には、ターゲットの検索力、魅力的なスカウトメールの文章力、スカウトから誘引するコンテンツの作成力などが求められます。また、リファラルに関しても、社員にしっかり働きかけなければ、紹介してもらうことは困難です。しかし、リファラル採用のスキルが高まれば、新しい社員を迎えるたびに、採用チャンスを広げられ、永続的な採用力を身につけることができます。採用担当としてのキャリアを積む上で、ぜひ目指してほしい目標だと思います。

長期的な視点で、母集団形成に向けた投資も視野に

安定した母集団を長期的に形成する方法はあるでしょうか?

たとえぱ、毎回大学3年生の母集団をゼロからつくるより、大学1~2年生向けの長期インターンやアルバイトなどで、学生への認知を広めておくのも一つの方法です。また、リファラルを長年続けて、プレ就学期の学生に「先輩たちが就職している企業」という認知度を高めていくのもよい手法だと思います。

地元大学の学生をターゲットにするなら、学生団体やサークルのつくるフリーペーパーへの広告出稿などで協賛するという手段もあります。そうやって学生とコネクションをつくっておけば、就活イベントの集客に学生が快く協力してくれることもあります。私が勤めていたリクルートでは、学生団体からの営業はすべて採用担当に流れるルートができていて、協賛のための予算も確保してありました。たった数十万円レベルで学生と強い結びつきができるのですから、採用の費用と比較すると桁違いに安いと言えるのではないでしょうか。就活生だけを厚遇するのではなく、それ以前の学生にもメリットを提供しておくことは、安定的な母集団形成の助けになると思います。

“数”より“確度の高さ”に着目し、生産性の高い採用活動を

今の採用トレンドを踏まえ、改めて母集団形成で重視すべき点を教えてください。

現在の採用市場は、“ぬか喜び市場”と思っています。不景気なので、求人倍率が下がり、買い手市場になると期待されているものの、実際は求人倍率が高止まりのままで、売り手市場となっています。それでいて、売り手市場だと学生が集まらなくなるのが通例でしたが、就職活動がオンイランに移行したことにより、学生が効率的に多くの企業にアプローチできるようになり、プレエントリー数が増えている状況。つまり、今の母集団は従来と比べて内定率が下がっており、非常に薄まった母集団と言えます。そのため、採用状況はかなり厳しいと言わざるをえません。

だからこそ、どんどん薄い母集団を大きくしていくよりも、今来てくれている学生のなかから、確率の高いところに手を伸ばさなければ、“労多くて益少し”ということになり兼ねません。ぜひ採用の“確度の高さ”という観点で、母集団形成や採用活動を再検証してみてください。

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この記事の著者

曽和 利光

株式会社人材研究所
代表取締役
https://jinzai-kenkyusho.co.jp/

リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験、また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や情報経営イノベーション専門職大学客員教授も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。