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現場社員を採用に巻き込む方法と成功事例(前編)【採用賢者に聞く 第20回】

近年、採用活動は多様化の傾向にあり、各企業がさまざまな工夫を凝らしています。その中でも、就職活動中の学生から多く聞こえてくるのが、「現場の雰囲気を知りたい」という声。それに伴い、現場社員を採用活動に巻き込む事例が増えています。そこで前編では、株式会社人材開発研究所のシニアコンサルタント・安藤健氏に、現場社員を採用活動に巻き込む意義や手法、成功事例などをお聞きしました。

株式会社人材研究所 シニアコンサルタント 安藤 健氏

青山学院大学教育人間科学部心理学科卒業。日本ビジネス心理学会 上級マスター資格。組織・人事に関わる人のためのオンラインコミュニティー『人事心理塾』代表。2016年に人事・採用支援などを手掛ける人材研究所へ入社し、2018年から現職。これまで数多くの組織・人事コンサルティングプロジェクトや大手企業での新卒・中途採用の外部面接業務に従事。著書に『人材マネジメント用語図鑑』(共著:ソシム)。その他『日経ビジネス電子版』にて人事・マネジメント系コラム「安藤健の人事解体論」を連載

現場社員が採用活動に参加する「リクルーター制度」のメリット

現場社員が採用活動に関わる事例は増えているのでしょうか?

現場の社員が採用活動に参加する代表例として、選考期間中に「リクルーター」と呼ばれる現場社員に一定期間関わってもらう「リクルーター制度」が挙げられます。これは1990年代以前からよく見られていた採用活動です。当時、日系大手企業ではリクルーターを通じてのみ採用選考に参加できるなど、クローズドな採用活動を行っているケースが多い状況でした。しかし、大手ナビサイトなどが普及・浸透するにつれ、このようなクローズドな採用活動は徐々に減少していきました。ただ、近年は売り手市場ということもあり、ナビサイトだけでは自社にマッチした学生を集めるのが難しくなったため、当時から形を変えてリクルーター制度が徐々に増えてきている印象です。

現場社員にどのようなことをやってもらうのでしょうか?

昔は、入社3年~5年目くらいの社員に参加してもらい、母校のキャリアセンターや研究室に行って後輩を紹介してもらう、という活動が多かったようです。ところが最近では、選考がオープンになってきたこともあり、関わり方も変わってきました。具体的には採用活動のフェーズに合わせて関わってもらうような感じです。

●説明会など人を集めるフェーズ:担当業務:説明会での登壇や座談会での協力
多くの学生に向けて、会社の魅力や現場の生の声を伝えます。興味を持ってもらい、エントリーにつなげる役割を担います。

●選考のフェーズ:担当業務:面接官やグループディスカッションでの選考
エントリーした学生を実際に選考するフェーズで、一次面接やグループディスカッションで学生の資質を見ます。このような場面では、若手社員はグループディスカッションに出てもらうことが多く、面接官は現場のマネジャークラスの方が務めることが多いです。

●内定後のフェーズ:担当業務:内定後の面談などのフォロー
最近では、内定後のフォローを若手社員に任せるケースも増えています。面談を行う機会を個別に持つことで、若手社員にとっては今後、内定者を育成していきたいと主体的に思えるようになります。一方、学生にとっては社内ネットワークを構築するきっかけになります。

現場社員が採用に関わるメリットはどのようなものでしょう?

現場社員だけではなく、応募する学生、人事部それぞれにメリットがあると考えています。それぞれについて解説します。

●応募する学生のメリット
何よりも現場のリアルを知ることができること。RJP(Realistic Job Preview)という言葉があり、日本語で言うと「現実的な職務予告」です。企業のいいところも悪いところも赤裸々に語るのがRJPで、そうすることで候補者の志望度が向上することが研究で実証されています。このRJPを現場社員に任せることで学生の志望度を向上させることができると考えられています。

●人事部のメリット
人事部のリソースは減少傾向にあります。過去、大手企業で5千人のエントリーを一人で担うといったケースもありました。そういった中で、現場社員が採用活動に参加してくれることで負担軽減になります。

●現場社員のメリット
採用活動を通じて、自社の魅力の棚卸につながるケースが多く見られます。学生を口説く中で、自社の魅力を再認識したり、課題を客観視、言語化できるようになったりします。そういった過程を経ることで、エンゲージメントの向上にもつながるのです。

現場社員に丸投げせず、人事部がコントロールする必要性

現場社員を採用活動に巻き込む場合、どのような人材が望ましいと考えますか?

入社3年~5年の若手社員が選ばれることが多いですね。仕事にも慣れてきて、会社のこともある程度理解してくる時期でもあり、また応募する学生にとっても、年齢が近いので相談しやすい対象なのだと思います。また、現場社員にとっても大きなメリットがあります。入社3年~5年の社員というのは、入社から数年が経ち、仕事や会社にも慣れてくる頃です。入社時の理想や期待が良い意味で修正され、現実を理解する反面、どこか飽きてしまったりモチベーションが下がってきてしまったりする時期がまさにここです。入社したての時期はエンゲージメントが高いのですが、徐々に低下します。この時期にさしかかっている若手社員の気持ちを立て直す意味でも、入社3年~5年目の社員、しかもハイパフォーマーが適していると思います。

現場社員を巻き込む上で、人事部が心がけておくべきことはなんでしょうか?

会社なので、本人だけではなく経営者や上司などとコンセンサスをとることが重要です。そのためにも、現場社員、応募する学生、人事、会社のメリットをしっかり整理して伝える必要があります。現場社員からどの程度の工数をもらうか、「この期間に〇〇時間だけもらえますか?」といった調整が必要です。
また、参加してくれる社員に対してはしっかりとガイダンスを行うようにしてください。そこでは、こういう目的で、こういうことを言ってほしい、ということをしっかりと伝えます。人事部が学生に伝えることと現場社員が伝えることで齟齬があってはいけないので、共通認識を持ってもらうことが重要です。
また、近年ではハラスメントの問題などもあります。ニュースでも、異性の学生をプライベートな食事に誘うなどして問題になったケースもありました。そういったことを避けるためにも以下のようなガイダンスで徹底させなければいけません。

①必ず同性の社員を担当させる 
②面接・面談以外の場所で会わない 
③決められた連絡ツールのみでしか連絡を取らない 

いずれにしても、現場社員に丸投げするのではなく、人事部がしっかりとコントロールすること。現場社員も含めた採用の制度・設計を人事部が担う、という意識が大事だと思います。

人事部は「コーディネーター」へと進化していくことが大切

現場社員を巻き込む有効性として、企業の規模や職種、採用目的などで違いはありますか?

現場社員を採用活動に加えるのは、やはり大企業が多いと感じています。中小企業やベンチャー企業では、採用担当者も実務のことを知っていることが多く、リクルーターと同じような動きができますから。ただ、そちらのほうが計画部隊と実行部隊が分かれていないので工数や時間を大幅に割くため、大変かもしれません。職種でいうのなら、どの職種でも有効だとは思いますが、専門的な職種は人事部がなかなか語れないケースが多くあります。そのような場合、たとえばシステム開発などの専門分野であれば、現場社員をアサインしたほうがいいと思います。

現場社員を採用活動に参加させた成功事例を教えてください

●大手不動産会社の事例
この会社はリクルーター制度どころか、特段の学生のフォローもしていませんでした。超人気企業だったので、学生も多く集まりますし、辞退率も極めて低い状況でした。ところが、徐々に辞退率が高くなり、相談を受けることになったのです。私からの提案は、リクルーター制度を導入し、最終面接前と最終面接後にリクルーターに面談をしてもらう、ということ。最終面接前には、志望動機の添削や就職活動を軸にしたブラッシュアップをしてもらいました。最終面接後は、学生から選んでもらうために選考情報から抽出した性格タイプやモチベーションリソースを基にリクルーターに各学生を担当してもらい、フォローしてもらいます。もちろん、リクルーターにはガイダンスやフォロートレーニング、マニュアルの配布などを行いました。そういった採用活動を1年間続けた結果、40%にまで落ちていた内定受諾率が、70%まで向上。学生から「現場の社員が個別に時間をとってくれたので、職場のイメージが沸いた」という声を多くいただきました。

●地方の老舗メーカーの事例
もうひとつの企業は、地方の老舗メーカーで、従業員150名程度の中小企業です。主にダイレクトリクルーティングで採用活動を行っていたのですが、年間採用予定人数5名のところ、1~2名ほどしか採用できていませんでした。そこで、人事部が担っていた役割と現場社員が担っていた役割を逆転させてみました。つまり、今までは人事部主導で学生を集めていたのですが、現場社員に学生を集める部分を担当してもらったわけです。自分が一緒に働きたいと思う学生をピックアップし、声がけし、口説いてもらう。そして、その後の面接などを人事部で行うという流れです。こうした採用活動を行ったことで、3年連続で5名の採用が実現しました。

現場社員を採用活動に巻き込むことで人事部にどのような変化がもたらされるのでしょう?

人事部のリソースは限られていますし、近年はリソースが減少傾向にあります。また、学生側からも人事部だけではなく、現場の雰囲気を知りたいという声が多く上がります。そういった中で現場社員を巻き込むことはある意味必然だと思います。
だからこそ、人事部は採用の現場を取り仕切る「作業者」ではなく、制度策定や設計をする「コーディネーター」に進化していく必要があります。採用するために、どのようなコンテンツを用意し、どのような人をアサインするのか、そういった設計を人事が行って、採用の現場でそれぞれの役割を担った人が工夫していく。人事の役割が、そのように変化していくのではないかと考えています。

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この記事の著者

安藤 健
株式会社人材研究所
シニアコンサルタント
https://jinzai-kenkyusho.co.jp/

青山学院大学教育人間科学部心理学科卒業。日本ビジネス心理学会 上級マスター資格。組織・人事に関わる人のためのオンラインコミュニティー『人事心理塾』代表。2016年に人事・採用支援などを手掛ける人材研究所へ入社し、2018年から現職。これまで数多くの組織・人事コンサルティングプロジェクトや大手企業での新卒・中途採用の外部面接業務に従事。著書に『人材マネジメント用語図鑑』(共著:ソシム)。その他『日経ビジネス電子版』にて人事・マネジメント系コラム「安藤健の人事解体論」を連載。