採用改善に活きる「Where・Why・How」の振り返りセオリーとは【採用賢者に聞く 第18回】

新卒採用が一段落すれば、どの企業の採用担当者も、今後の採用活動に向けて振り返りを行うのではないでしょうか。しかし、この振り返りで分析を間違えてしまうと、同じミスを繰り返したり、目標が達成できなかったり、来期以降の採用活動に支障が出る恐れがあります。そこで今回は、採用活動を振り返ることの重要性やポイント、注意点について、株式会社アタックス・セールス・アソシエイツの採用コンサルタントである酒井利昌氏に詳しく伺います。
“枝葉”ではなく“森”を見ることが、振り返りの第一歩

――採用活動を振り返ることの重要性は、どのような部分にあるのでしょうか。
振り返りは、いわゆるPDCAサイクルのC(チェック)の部分で、成果の再現性を高めるために必要です。どのようなアプローチを実施し、それがどれだけの成果を生んだのか、一度立ち止まって確認することで、次年度の採用に生かせます。
――振り返りの際に、よくあるNG例はありますか。
あります。どうしても現場は、目の前にある“枝葉”に目が行きがちです。しかし、採用フロー全体である“森”を見てから、パーツである“枝葉”を見ていく手順で振り返らないと、問題の本質を見失います。たとえば、内定辞退が多いという課題があったとしましょう。すると、「内定者フォローがまずかったのではないか、もっと手厚くするべきではないか」という議論になるケースが多く見られます。しかし、採用フロー全体を見ていたのなら、「面接段階での動機づけが不十分」、「面接官が学生の本音を見誤る」などの可能性も見えてくるでしょう。また、逆も考えられます。非常に攻めた採用活動だったため、完全にマッチする学生以外は辞退したという“成功事例”だったのかもしれません。こういったことからも、全体を見てボトルネックを特定するということが、振り返りの第一歩だと考えます。
※よくあるNGな振り返り
課題 | △ NGな振り返り | ○ 検討すべき点 |
内定辞退が多い | △ 内定者フォローを再検討する。 | ○ 内定者の動機づけ不十分だった要因を、採用フロー全体で見直す。 ○ 内定承諾者から、最終的 に当社を選んだ理由を確認し、成功パターンを探る。 |
候補者集団が集まらない | △ 利用する媒体を見直す。 | ○ 募集媒体で伝えている情報を再検討する。 ○ 候補者集団形成の時期を見直す。 ○ インターンシップからの歩留りをチェックする。 |
オンライン面接での見極めが難しい | △ 質問項目を再検討し、場合によっては対面の面接も盛り込む。 | ○ 面接官のスキルに問題がないか検討する。 ○ オンライン面接に至るまでの学生のフォローアップに問題がないか見直す。 ○ 採用フローでのオンライン面接の位置づけを再検討する。 |
「数字」という客観的なデータを収集し、原因を特定する

――振り返りを実施する際のポイントを教えてください。
はい、大きくは以下の5つです。
●全体をみる
前述したように、個別の課題に対して、“How(どうやって)”を探る前に、採用フロー全体でのボトルネック、“Where(どこ)”を探ることが重要です。
●客観的なデータを収集
“Where(どこ)”を探るために必要なものは、定量的に測れる客観的なデータです。その代表的なデータが、採用プロセスの各段階で歩留まりした学生数です。この歩留まりの数をプロセスごとに見える化して分析する手法を「パイプライン管理」と言います。「プレエントリー数」→「説明会参加者数」→「一次選考応募者数」→「一次選考合格者数」→…「内定者数」→「承諾者数」と、採用フローの各段階での人数をまとめましょう。そうすると、学生の歩留まりが一目瞭然になり、歩留まりが低い過程は何らかのボトルネックがあると判断できます。
●あるべき姿と比較
理想的な採用活動は、「5人採用したいとき、5人応募してきて、5人内定を出したら、5人とも承諾した」ということです。しかし、実際にはそのようなことはなく、学生の数は、採用プロセスを経て徐々に減っていきます。しかし、歩留まりには、平均値というのがあります。面接での不合格の割合は3割前後、内定辞退率は約6割など、目安を知っておけば、その目安と自社の現状とを比較して振り返ることができます。
また、自社が理想とする基準を設けて、実際と比較することも重要です。たとえば、「今年は通常より採用する人のレベルを上げ、アグレッシブな採用を目指すので、内定辞退率が平均より高い70%でもやむなし」と状況を加味して基準を設定したほうが、狙い通りの採用活動ができたのか、正しく振り返ることができます。逆に、毎年同じフローで同じ歩留まりだとしたら、もっと高い目標を設定して、採用活動の改善に努めることも意味があると思います。
●内定辞退者からヒアリング
内定を出す段階まで進んでいる場合、企業と学生との間に本音を話せる信頼関係ができているのが理想です。まして、どうしても獲得したい学生であれば、採用担当者も密にコミュニケーションを取っているべきです。そのような関係性が結べているならば、どうして自社を選ばなかったのかをフラットに聞いてみるのもよいでしょう。「次年度の参考のために」と忌憚のない意見を請うと、学生も協力してくれると思います。それによって、企業側の主観的な見解とは、異なる意見を聞き出せるかもしれません。もし、学生から本音を聞きづらいという場合は、外部サービスに委託してヒアリングしてもらうのも一つです。利用するにはコストが掛かりますが、次年度の採用成功に向けての投資と考えて、取り組むことをおすすめします。
●入社後の活躍も定期的に確認
入社した社員が、現場で活躍しているかどうかも、1、2、3年後と定期的に追いかけたほうがよいでしょう。採用活動は、活躍できる人材を獲得することが目標ですから、その成果の振り返りは重要です。活躍が芳しくなければ、採用基準を見直す必要があるからです。
――振り返りのために、特別なツールなどは必要でしょうか。
たくさんの媒体を利用している場合や、スカウトやリファラルなど、さまざまなチャネルで採用活動を実施している場合は、情報を一元管理できるシステムがあると便利でしょう。しかし、前述のパイプライン管理は、基本的にはエクセルで簡単にまとめられるので、取り立てて新しいツールを導入する必要がありません。まだデータ分析に取り組んでいない企業でも、すぐに始められるうえに的確にボトルネックを把握することができます。パイプライン管理は、労力やコストをそれほどかけなくてもできるので、ぜひ取り組んでみてください。
ボトルネックの追究に欠かせない、「視点」「知見」そして「第三者の声」

――振り返りで難しい点はどこでしょうか。
当事者は、主観的になりやすく、枝葉の話になりがちなのは、前述したとおりです。そのため、あえて客観的なデータに目を向ける努力が必要かもしれません。客観的なデータの代表例は、数値化できるデータです。すべて数値に置き換えるだけでも、客観的な現状把握に役立ちます。これによって、ボトルネックの“Where(どこ)”を見つけることができます。
しかし、ボトルネックを特定できたとしても、なぜボトルネックになっているのか、“Why(なぜ)”を深堀りしていくには、多角的な視点や豊富な知見が必要です。社内の当事者だけだと、どうしても視野の広がりに限界があるので、できるだけ社外の人と話し合うことをおすすめします。これまでの採用活動の過程を知らない第三者だからこそ、当事者では見つけられない原因に気づくことができるかもしれません。第三者がパッと思い当たらない場合は、求人媒体の担当者などに協力を仰ぐのも一つの手だと思います。
もちろん、私たちのような採用コンサルタントも力になります。冷静な目で課題を指摘し、“Why(なぜ)”に関してさまざまな事例をもとに適したアドバイスができますので、うまく活用してもらえればと思います。

――“Why(なぜ)”について、いくつかケーススタディを教えてください。
2つのケーススタディをお話ししましょう。
- プレエントリーから、説明会や選考に進む割合が低い場合
これは、事前に提供している情報で動機づけができていない可能性があります。プレエントリーは、学生にとってハードルが低いため、動機づけができていないと「わざわざ説明会や選考に行くのは…」と面倒くさくなってしまうのです。
解決策は、ケース・バイ・ケースです。たとえば、事前に提供している情報の質そのものに原因がある場合は、まず、中身を再検討する必要があります。検討した結果、内容が十分なら、情報を何回かに分けて提供し、学生の興味を引っ張り続けるという方法もあります。また、マスの情報はスルーされやすいので、どうしても獲得したい学生に対しては、個別に情報を発信するという手段もあります。
- 選考から、合格者の歩留まりが低い場合
一般的に、1回あたりの選考の歩留まりの目安は約70%です(不合格が30%)。それ以下になったら、何かしら問題があると考えられます。これは、辞退者が多いのか不合格者が多いのかで、“Why(なぜ)”の答えが変わってきます。- 辞退者が多い場合
学生からNGを出されているときは、動機づけができていない可能性が高いです。面接官の働きかけや伝えるメッセージ、選考後のフォローなどを見直す必要があるかもしれません - 不合格者が多い場合
そもそもマッチしていない学生を集めている可能性があります。候補者集団を形成する際に媒体で発信する情報や、説明会の内容などを再考する必要があるかもしれません。
なかには、面接官が合格を出してしまうのが怖くて、不合格を多く出してしまう、というケースもあります。合格には、それなりの論拠が必要なため、面接官は選考に迷ったら、落としたほうが楽と考えるからです。まして、次の面接で「なんで、こんなマッチしない学生を通したのか」と上司などからプレッシャーを掛けられるくらいなら、なおさら落とすことを選ぶでしょう。ちなみに、私は最終面接以外なら「迷っていたら通しましょう」と勧めています。複数の面接官のジャッジを仰ぎ、最終面接で総合的に判断するほうが、学生を多面的に捉えた見極めが行えると思います。
- 辞退者が多い場合
“Where”→“Why”→“How”というセオリーで、振り返りを成功させる

――最後に、振り返りに必要なことを教えてください。
振り返りで失敗している多くの企業が、枝葉の課題からすぐに“How(どうやって)”を考えようとしています。重要なのは、まず全体からボトルネックを特定する“Where(どこ)”に取り組むこと。そして、ボトルネックを特定できたら、その原因や理由を深堀りする“Why(なぜ)”を追究することです。“Why(なぜ)”で課題が明らかになって、初めて“How(どうやって)”である施策を検討するのがセオリーです。
“Where(どこ)”は、客観的なデータをまとめて分析すれば、比較的容易に取り組むことができます。ただ、“Why(なぜ)”の追究に関しては、豊富な経験や幅広い知見が必要です。採用関係の本などで、さまざまな事例に触れて知識を吸収することも、一つの方法でしょう。場合によっては、当事者だけ無理やり解決しようとせず、私たちコンサルタントのような第三者に客観的な意見を求めることも、採用活動を成功させる方法の一つだと思ってください。
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