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そのエントリーシート、必要ですか?採用の当たり前を見直す【採用賢者に聞く 第17回】

採用活動でほとんどの企業が取り入れているエントリーシート。何の疑いもなくエントリーシートを採用活動に組み込み、学生に提出を依頼している採用担当者もいるのかもしれません。しかし、採用のスペシャリストを中心にエントリーシート不要論がささやかれています。エントリーシートが抱える課題とは何か?株式会社アタックス・セールス・アソシエイツの採用コンサルタント、酒井利昌氏に詳しく伺いました。

就職氷河期、スクリーニング目的で浸透したエントリーシート

――エントリーシートを多くの企業が採用活動に取り入れています。導入されるようになった背景を教えてください。

まず、エントリーシートの導入状況についてですが、就職みらい研究所(『就職白書2018』『就職白書2019』) の調査によると、エントリーシートを導入している企業は65.0%(18新卒)から69.0%(19新卒)と増加傾向にあります。企業がエントリーシートを導入する理由をひとことで言ってしまえば、学生をスクリーニングするためです。内容等で足切りに使うケースもあれば、エントリーシートの作成には、それなりの時間と労力を要するため、「提出された=志望度が高い」という目安にするケースもあります。

しかし、もともとのエントリーシートの目的は違いました。履歴書に記載されている学歴ではなく、その人の価値観や考え方に焦点を当てて採用をするために、必要な情報を記載してもらうものだったのです。90年前半にソニー株式会社が採用したのが初めてと言われており、当時、「学歴不問」で大手企業が新卒採用を実施するのは、画期的なことでした。

しかし、90年代後半から就職氷河期が始まり、就職市場は買い手優位へと移っていきます。さらにインターネットが普及したことで、学生が手軽に応募しやすくなり、人気企業は溢れる応募者への対応を効率的に行う必要に迫られました。その一方で学歴社会に対する批判は高まり、求人の門戸はオープンにしなければなりませんでした。そのような流れを受けて、スクリーニングのためにエントリーシートが導入されるようになっていったと考えられます。

エントリーシートによって奪われた、学生と企業の“出会い”

――エントリーシート反対派と伺いましたが、その理由を教えてください。

大きく理由は、2つあります。
企業側が機会を損失しているということと、学生の時間をむやみに奪っているということです。

●企業側の機会損失

エントリーシートの提出は、就職活動の初期に設定されている場合がほとんどです。採用活動のセオリーは、「集める」→「見極める」→「動機づける」の順番です。しかし、「見極める」ものであるはずのエントリーシートは、その性質上「集める」を飛ばして最初に持ってくることになってしまいます。つまり、動機づけの前に志望度を測ることになります。とはいえ、この時期はよほどの学生でなければ、明確な志望動機は形成されていません。学生がエントリーシートを提出するかどうかは、志望度の高さに左右されますから、まだ動機づけができていない優秀な学生を取り逃がしている可能性があります。マトリクス図で説明しましょう。

①「自社の採用ターゲット」で「自社への志望度が高い」学生を示した象限
②「自社の採用ターゲット」であるものの「自社への志望度が低い」学生を示した象限
③「自社の採用ターゲット外」で「自社への志望度が高い」学生を示した象限
④「自社の採用ターゲット外」で「自社への志望度が低い」学生を示した象限

自社ターゲットは第1象限、第2象限の学生です。第1象限の学生はエントリーシートを課してもエントリーしてくるでしょう。問題は第2象限の学生です。当社のことを認知はしているものの他社と比較して興味関心が高くない第2象限の学生の場合、エントリーシートを課すことで、エントリーを敬遠する可能性が高まります。

言うまでもなく、自社ターゲットの学生をどれだけ採用できるかを追求することが採用活動です。しかしながら、エントリーシート提出の義務付けは、その追求とは真逆で、自社ターゲットの学生からのエントリーの可能性を下げる取り組みなのです。エントリーシートを課すことで、採用機会を失ってしまっていいのでしょうか。

また、学生がエントリーシートを作成する数は、私の実感値では一人あたり15~30社です。就活初期の時点で、まだ学生の動機づけができていないなか、数多くの企業の中からその30社に入れるかどうかが一つの勝負になります。これらを鑑みると、エントリーシートの提出を求めたときに集まるのはその企業のファンだけという可能性が高く、学生獲得の機会がかなり限定されることになります。

●学生の時間を奪う

1社あたりのエントリーシートを作成するのに、学生は少なくとも1~2時間かけているという調査もあります。しかし、就活初期のため、ほとんどの学生は企業理解が進んでいません。エントリーシートの質問にありがちな「志望動機」「志望順位」「業界を選んだ理由」などに対して、学生は回答に困り、対策本などを参考にした通り一遍な内容になる恐れがあります。

そのようなエントリーシートをもとに面接を進めても、学生の回答とエントリーシートの内容に齟齬が出てしまい、適正な選考などできるはずがありません。学生の本質に迫るような内容を期待できないエントリーシートは、労力をかけているかどうかだけを測るものになってしまいます。それだけのために学生の時間を奪ってしまうのはどうなのか、一考すべきでしょう。

――エントリーシートに反対するようになったきっかけはなんですか。

実は、私自身が学生時代の就職活動で違和感を持ったことが発端です。エントリーシートを書くにあたり、それほど強い志望動機がないなかで、志望動機が生まれたストーリーをつくらなければなりませんでした。しかも、そのエントリーシートをもとに、面接で深堀りされることが、辛かったんです。周囲を見ると、エントリーシートを真面目に作成して就職活動に臨んでいる学生も多かったのですが、内定を得るためだけに自分の本音でないものを提出することに、私は抵抗がありました。もちろん、私が優秀な学生だったと言うつもりは毛頭ありませんが、少なくとも自分と同じように違和感を持ち、エントリーを躊躇する学生がいることは、想像に難くありません。

また、私が採用に関わる側になった際、エントリーシートで選考するときに、中身で判断するというよりは、特定のキーワードが入っていればOKというような、機械的なスクリーニングに使うケースもありました。これでは労力をかけた学生にとっても、学生の本質に触れる機会を損なう企業にとっても不幸でしかない、という思いが強くなったんです。

新しい採用フローのために役立つツールと必要な体制とは?

――理想と考える採用フローがあれば教えてください。

応募数が多すぎて選考が大変という状態でない限り、エントリーシートは廃止してもよいでしょう。もし、学生をスクリーニングしたいなら、募集要項に求める人物像を明示することです。ただ、「積極性がある」「チャレンジ精神が旺盛」など、学生任せの尺度となるものはNGです。重要なのは、客観的な採用基準を明示することで、たとえば「○○を研究していた」「○○の経験がある」といったように、事実ベースの指標が望ましいと考えます。「〇〇は専門ではないが、隣接分野を研究していた」など、基準に幅を持たせたいときは、説明会やその後の面接などでフォローしていけばよいと思います。

学生と企業の両者にとって、よりよい出会いのチャンスを増やすために、一番やってはいけないのは時間をムダにしてしまうことです。求める人物像を明示すれば、学生が自分自身で企業に求められているかどうか、セルフスクリーニングすることが可能です。企業としても、エントリーしてくれたやる気は認めるけれど、マッチしないという学生を選考せずに済みます。

何より、求める人物像の明示は、就職という人生の岐路に立つ学生に対する、企業側の責任でもあります。アンマッチであることを、入口の段階で理解してもらったほうが、そのぶん学生は他企業への就活に力を入れられます。早めに他企業の就活に注力できれば、より自分に合った企業に内定するチャンスが広がるでしょう。学生の可能性を閉ざさないためにも、求める人物像の明示は重要なことだと思います。

――エントリーシートを廃止するにあたっての弊害は何でしょうか。

強いて言えば、採用担当者の人事評価でしょうか。企業によっては、不合格者数を減らすことが、評価の対象になっている場合もあります。エントリーシートを廃止すれば、応募のハードルが下がるので、求める人物像を明示してセルフスクリーニングをかけても、間違いなくエントリー数が増えるでしょう。しかし、採用枠が決まっている以上、多くの不合格者を出すことになります。
このような理由からも、エントリーシートの廃止にあたっては、採用フローを支える裏側の制度の整備が求められてくるかもしれませんね。

――エントリーシートを廃止した際に、新たに必要な対応があれば教えてください。

必要と考えられる対応は2つあります。

1. 事前情報の入手方法

面接での事前情報の収集にエントリーシートを使っていた場合、その代替ツールとして、チェック式のアンケートを利用する方法があります。エントリーシートに文章を記入する場合は、学生も時間がかかってしまうため負担に感じるでしょうが、選択肢をチェックするだけで済むアンケートなら抵抗は少ないと思います。

また、エントリーシートを作成するとなると、学生は志望動機などのストーリーを考えて、内容を誇張しがちになります。その点、チェックシートなら、客観的に情報を取ることができます。面接で質問する際のキッカケを知りたいのであれば、これで十分機能するでしょう。もちろん、チェックシートがなくても、面接で巻き取れるという企業なら、それでも問題ありません。

【チェックシートの質問項目例】
・志望業界をチェックしてください(複数回答可)
□メーカー □商社 □小売 □金融 □サービス □ソフトウエア・通信 □マスコミ □官公庁・公社・団体 □まだ決まっていない □その他

・選社基準を教えてください(複数回答可)
□ネームバリュー □事業のスケール □業界でのポジション □社会貢献性 □事業の将来性 □若手から活躍できる □ジョブローテーションがある □給与などの待遇 □手厚い教育制度 □大学での学びを生かせる …  

2. 面接時間と量の確保

繰り返しになりますが、エントリー数は間違いなく増えます。今までエントリーシートを嫌煙していた学生にリーチを広げ、原石を見つけるために取り組んだ結果なので、増えるのは当然のことです。だからこそ、企業はそれに対応できる面接体制を整えておく必要があります。もし、エントリーが増えすぎると困るのであれば、求める人物像の解像度を上げて明示し、セルフスクリーニングでエントリー数を絞っていくことが必要です。

労力を惜しんでいては、よい採用を望めない

――最後に、企業や学生にとってエントリーシートを廃止するメリットを教えてください。

エントリーシートの廃止は、学生にとっては負担が減ってエントリーのハードルが下がり、採用の可能性が広がるのでメリットしかありません。企業にとっても、これまで出会っていなかった学生と会えるチャンスが増えるので、取り組むことを積極的におすすめしたいと思います。就職みらい研究所の『就職白書2022』 によると、22卒採用では、46.4%の企業が採用予定数よりも内定者を確保できなかったという結果が出ています。もし、エントリー数が少ないと悩んでいる企業なら、エントリーシートを廃止するだけでも、効果は出るのかもしれませんね。

就職活動は、実際に学生とオンタイムでやりとりしてこそ、マッチングできると考えています。エントリーシートで、スクリーニングをかければ面接の負担を効率化できるかもしれません。しかし、たとえ負担が増えたとしても、直接学生とやり取りできる面接を重視していくほうがよい結果を生むと思います。

後編:採用改善に活きる「Where・Why・How」の振り返りセオリーとは【採用賢者に聞く 第18回】(2022年5月20日 公開予定)

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この記事の著者

酒井 利昌
株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ
採用コンサルタント
https://attax-sales.jp/

『いい人財が集まる会社の採用の思考法』著者。学習塾業界、人材サービス業界を経て、現職。営業コンサルタントとして現場指導に従事するとともに、採用コンサルタントとして活動。採用がうまくいかないことが成長のボトルネックとなっている企業が支援対象。 独自の営業・マーケティングノウハウを転用した採用力強化メソッドは、15ヶ月間、採用できなかった中小企業を2ヶ月間で成功に導くなど実績多数。「人の力を源泉に成長したい」全国の企業からのオファーが絶えず、無料で採用相談を受けることをライフワークにしている。