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服部教授が語る「採用学」を企業が取り入れるためのポイント【採用賢者に聞く 第14回】

前編で紹介した「採用学」を、企業はどのように生かすことができるのでしょうか。前編に引き続き、後編も神戸大学大学院経営研究科経営学専攻の服部泰宏准教授にお話を伺います。採用担当者の経験知を科学的なアプローチで捉え直すことが、採用活動にどのようなメリットを生むのか、研究事例にも触れつつご紹介いただきます。

前編:人事が知っておきたい「採用学」とは?採用を“科学する”理由【採用賢者に聞く 第13回】

面接内容の再検討を学術的に指摘。実学を目指す採用学の現在

――採用学の理論やノウハウは、どのように企業に取り入れられているのでしょうか。

その前に、ビッグエビデンスと、リトルエビデンスという言葉について説明させてください。ビッグエビデンスとは、広く一般的に適用される知識の根拠となるものです。一方、リトルエビデンスとは、「この企業、この業界では、こういうことが言える」という局所的に当てはまる知識の根拠となるものを指します。現在の採用学では、個別のニーズに対応しながら調査や研究を進めるフェーズであるため、リトルエビデンスが研究成果の中心となっています。企業は、そのリトルエビデンスのなかから、取り入れられる部分を取捨選択し、参考にしていただいています。

――採用学の中で、現在もっとも有用性のある理論やノウハウは何でしょうか。

面接に対して再検討の必要性を突きつけたことが、インパクトとして大きかったようです。具体的には、求職者を評価するときに、「変わりやすい能力」と「変わりにくい能力」を分けて考えることを提言しました。変わりやすい能力ならば、採用時に評価する必要性は低いからです。多くの企業が重視するコミュニケーション能力というのは、人との関係性のなかで、伸ばすことができる能力ですから、採用時の評価のプライオリティは低いと言えます。

ただ、「コミュニケーション能力の評価はプライオリティが低い」というのもまたリトルエビデンスです。企業によって、人材育成に当てられる社内リソースは異なりますので、一概にこの理論が正しいとは言えません。たとえば、人材を育てる余裕のない企業であれば、採用時からコミュニケーション能力の高い即戦力が必要になると考えられます。

現時点で、ビッグエビデンス的に捉えるとすれば、採用で見るべき能力は、「育成などで変化する可能性が低い能力」「社内で育てられない能力」の2つです。

変化する可能性が低い能力・IQ
・言語処理能力
・数的処理能力
・創造性 など
変化する可能性が高い能力・コミュニケーション能力
・知識
・第一印象
・顧客に対する考え方 など

採用学を取り入れたい企業が行うべき、「振り返り」「照合」「比較」のメソッド

――企業が採用学を採り入れたい場合、どんなケースで活用することができますか。

●採用時データを面接官の振り返りに使う
採用学の研究で調査しているデータを自社でも持っていれば、それを振り返りに活用することは有効だと思います。たとえば、ある企業が、面接時の動画を応募者についての情報共有にしか使っていなかったとします。その動画を、面接官本人にも視てもらい、質問や発言の意図を自分の言葉で表現してもらいます。そうすることで、面接官本人の気づきにつながりますし、エキスパート面接官の考え方やテクニックを社内で共有する機会にもなるはずです。

●採用時の評価と、入社後の評価を照合する
採用面接時の評価や、適性検査のスコアなどを、入社後に実施された上司からの評価と照らし合わせることで、両者の差は明らかになります。もし、採用時の面接の評価と入社後の評価の適合率が高い場合は、その面接官がどのような着眼点で面接に臨んでいるのかをヒアリングし、ナレッジとすることが可能です。反対に、適合率が低い場合は、採用時の面接の精度を高める必要があると考えられるでしょう。

●採用革新が成功している企業の採用体制と比較する
前編で、採用革新が成功している企業について2つのファクターを挙げました。それが自社で取り組まれているのかをチェックすると、採用課題が明確になると思います。

採用革新に成功した企業が満たしているファクター
(1)自社の人材要件が明確であること
(2)採用活動を一丸で実施する社内体制があること

――企業が採用学を自社の採用活動に取り入れるとき、注意すべき点はなんでしょうか。

他社の事例や、論理、理論をそのまま取り入れるのは避けてください。各社がそれぞれの強みを模索し、競い合うビジネスの世界において、企業ごとの人材戦略は同じではありません。あくまでも他社の知見は参考程度にして、自社の文脈でしっかり咀嚼して取り入れるようにしてください。

特に人事業界は、ファッション業界のようにトレンドに振り回される傾向にあります。経営学の中にも「マネジメントファッション」という言葉があるほどです。常に新しい情報を収集しようと勉強熱心な人事が多いからかもしれません。しかし、ビジネスはトレンドを追いかけるものではありません。話題性があったからといって、すぐに新しい制度や手法に飛びつくのではなく、自社のコンテクストをしっかり捉え、本当に必要な制度なのかどうか比較検討することが大切です。

採用学によって、属人化していたノウハウの引き継ぎや自社の魅力の伝え方が変わる

――採用学を取り入れている企業の事例を教えてください。

私たちは、新潟県の老舗の製菓メーカーと、採用学の共同研究を実施しています。このメーカーは、採用活動について一定の成果を上げていました。しかし、長年愛されている看板商品が、将来的に需要が落ち込んでいくことを予想し、新たな商品の企画や、社内体制の刷新をリードする次世代人材を求めていたんです。その人材は、今まで採用してきた要件とは異なるため、「従来どおりの採用活動で獲得できるのか」という不安があり、私の研究室に声がかかりました。

研究は、今までこのメーカーがどのような評価を行ってきたのかを、面接官へのヒアリングや、面接時の評価シートなどをもとに定量的に測るところからスタート。それによって、採用担当者が持っていた経験知を、データや理論で相対化することができました。現在、その結果をもとに人材要件や採用活動の見直しを進めているところです。
科学的なデータ分析やエビデンスがあるため、採用担当者の業務の引き継ぎもスムーズになったと聞いています。属人的な経験知をナレッジとして共有するという面でも、採用学は一定の成果を上げていると考えます。

――採用学について、企業から直接相談を受けたり、アドバイスを求められることはありますか。

各地で講演を行った際に、現地の企業から相談をいただき、採用学の観点からアドバイスすることもあります。
地方の企業は、母集団形成やオンライン面接でのコミュニケーションのとり方に課題を感じている傾向があります。このような課題を抱えた企業と、採用革新を成功させている企業とでは、「自社の魅力の伝え方」が違います。よくあるNG例は、自社の魅力を企業の規模や給与水準などの“スペック”で伝えようとしてしまうことです。採用革新を成功させている企業は、“スペック”よりも、その企業に入社したときに得られる“経験”を伝えているのです。しかも、近未来の話で、なおかつ解像度が高い情報を提供しています。終身雇用制度が崩れ始めている今、求職者にとって「定年まで40年間保証する」という安定性を謳うメッセージは、現実感がないということがここからも見えてくるのではないでしょうか。

なお、企業の方にコメントする際、引き合いに出している採用学の基本的な考え方は、次の書籍でも紹介されています。ご興味のある方は、ぜひご参考にしてください。

●服部泰宏 著 『採用学』
採用学採用の科学について、日本語で書かれた数少ない入門書。募集・選抜の基本的な考え方やエビデンスに加えて、新たな採用に取り組んでいる採用革新事例についても紹介。エビデンスに基づいた採用施策を目指す人にお勧めしたい一冊。
採用学 (新潮選書) | 服部 泰宏

●窪田司 著 『「化ける人材」採用の成功戦略』
中小企業、地方企業の採用戦略にフォーカスした一冊。大企業がとりうる「強者の戦略」だけでなく、それとは異なる「弱者の戦略」を理解することこそが、中小企業、地方企業には重要になる。この点について、著者自身の真摯な観察・学習・実践から紐解いた実践的な一冊である。
「化ける人材」採用の成功戦略 (小さな会社こそが絶対にほしい!) | 窪田 司

●伊達洋駆 著 『オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方』
オンライン化された採用のあり方について、既存の学術的知見を踏まえつつ、丁寧に解説したもの。オンライン採用の実務的・即効的な提案もさることながら、そもそも採用におけるコミュニケーションというものをどのように理解するべきか、採用とはそもそもどのような活動であるか、という点にまで踏み込んだ骨太の一冊。
オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方 | 伊達 洋駆

採用担当者の経験知を体系化させて、企業の採用革新を加速に導く

――最後に、採用学が目指す採用活動の未来について、お聞かせください。

日本の採用が長年変わらなかった理由は、企業の人事制度にも一因があると考えます。よくある例としては、若手社員が採用担当に抜擢され、数年で異動するというケースです。そのため、採用活動は属人的なものになり、人事部としてのノウハウが蓄積されないままでした。このような企業では、採用活動のPDCAを回すことができないので、言葉を選ばずに言えば“停滞していた”と言っても過言ではありません。

採用担当者の経験知を、社内にどのように蓄積するかは、全企業にとっての共通課題ではないでしょうか。そして、その一助となるのが採用学だと私は考えます。採用活動における成功や失敗の原因を、科学的なアプローチで裏付けし、過去の事例を体系化して理解できれば、企業の採用革新はもっと加速するはずです。採用学が、人事部の生きた知恵になりうるよう、これからも学問として突き詰めていきたいと思っています。

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この記事の著者

服部 泰宏
神戸大学 大学院経営学研究科 経営学専攻
准教授

博士(経営学)(神戸大学)。専攻は人的資源管理論、組織行動論。滋賀大学専任講師、同准教授、横浜国立大学准教授を経て、2018年4月より現職。日本企業における組織と個人の関わりあいをコアテーマに、経営学的な知識の普及の研究、日本、アメリカ、ドイツ企業の人材採用に関する研究などに従事。2018年以降は、企業内で圧倒的な成果をあげ「スター社員」に関する研究も行っている。 2010年に第26回組織学会高宮賞、2014年に人材育成学会論文賞、2016年に日本の人事部「HRアワード」書籍部門最優秀賞受賞、2020年に労務学会賞(学術賞)などを受賞。