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人事が知っておきたい「採用学」とは?採用を“科学する”理由【採用賢者に聞く 第13回】

採用活動に関するノウハウは、採用担当者が経験を重ねて、独自に模索しながら蓄積されていくものです。これらの経験知に対し、採用活動を科学的にアプローチする研究を「採用学」として提唱しているのが、神戸大学大学院経営研究科経営学専攻の服部泰宏准教授です。採用学は採用革新を目指す採用担当者や企業にとって、論理的な支柱となることが期待されています。前編は、採用学の成り立ちや概要、目指す世界について、服部樹教授に語っていただきます。

磐石であった新卒一括採用という型が崩れ、「採用学」は生まれた

――採用学とは、どのような学問なのでしょうか。

「人材採用=経営に関わること」なので、採用学も大きくは経営学のなかに含まれます。しかし、これまでの経営学には、人材採用の領域をフォーカスした学問体系がありませんでした。公的組織でも、民間企業でも、人材採用が非常に重要であるにも関わらず、多くの課題を抱えていたのです。そのため、採用学を新たに提唱することにしたんです。

採用学では、求職者が企業と出会ってから活躍するまでを領域としています。そして、入口である採用プロセスのなかで何が起こっているのか、入社後どのような過程を経ていくのかという2つの観点から、採用活動の実態や課題にアプローチしていきます。採用学を活用することによって、期待していた力を社員が発揮してくれないという企業の悩みや求職者に対して、採用における“出会い”に起因する問題を減らしたいと考えています。

――採用学は、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか。

採用学の必要性を感じ始めたのは、2012年ころです。この頃から、新卒の採用活動の解禁日を後ろ倒しにするということについての検討が始まり、実際に2015年より、長年の慣例だった大学3年生の10月から、12月に後ろ倒しになりました。これによって、企業の採用活動に大きな影響が出ると感じたのです。

それまでの採用活動は、新卒一括採用という型ができており、「この時期にはこのように学生にアプローチすればよい」というある程度パターン化されていました。そのため、企業が個別にデータ分析したり、エビデンスによる実証などに取り組んだりする必要性はさほどありませんでした。

しかし、採用活動のスケジュールが後ろに倒れてしまうため、これまでの定石は通用しません。学生にアプローチできる期間も短くなるため、各社が採用活動のさまざまな課題に直面すると考えたのです。また、この時期は、スカウトや逆求人など、新たな採用活動のスタイルが模索されていました。そのとき、頭に浮かんだのは、2000年初頭に渡米先で見た、現地企業の採用活動です。

アメリカはジョブ型採用が一般的で、求める人材を獲得するために、各社が個別に戦略を立てる必要がありました。そのため、募集広告の見せ方や面接の効果など、採用についての科学的なアプローチが、早くから追究されていたんです。特に、研究者、現場の採用担当者、コンサルタントが有効な採用活動のエビデンスを出そうとスクラムを組んで研究している姿は印象的でした。

新卒一括採用の型が崩れることで、日本もアメリカと同様に研究者と採用担当者、コンサルタントがフラットに議論する環境が求められるようになるだろうと考えたんです。これが、採用学を提唱したきっかけです。

――採用を科学することの目的とゴールは何でしょうか。

企業と求職者の双方をハッピーにする、というのが大きな目的ではありますが、難しいのは採用が多様性のある「人」に関わる領域だということです。工場製品の検品のように、採用活動に合理化や効率化を求めれば、よい人材を獲得できるのか、というとそうとも言えません。求める人材を獲得するために、コストがかかったとしても、それは間違いではなく、即戦力を求める企業と、一から育てる体制のある企業では、抱えている採用課題は変わってきます。

採用学が出すアンサーは決して一つではありません。採用活動の最善策を発見するというよりは、各企業が自分のアンサーを出せるように枠組みを提示するのが、採用学の役割なのです。そのあたりは、経営判断の一助になる経営学の役割に近いかもしれませんね。

採用革新の成功要因と評価の妥当性を、科学的に追究する

――採用学の研究対象として、何が挙げられますか。

研究対象は広範です。ざっくり説明すると、採用に関わるあらゆる問題が対象となりえます。そのなかで、現在核になる研究テーマは2つです。

●採用革新が成功する要因
採用革新に成功している企業を調査し、その取り組みやノウハウを分析。そのなかで、個別にテーマを絞り、面接にフォーカスした研究に取り組んでいます。具体的には、「優秀な面接官は何を評価して、ジャッジしているのか」「面接官同士で、どこに違いがあるのか」などの分析です。

●採用時の評価と入社後の活躍の相関性
採用時に評価された「優秀さ」と、実際に活躍する人材との相関性を分析。両者につながりがなければ、面接で実施している評価に有意性が認められないと言えます。この分析を通じて、採用時の評価項目や評価基準はいかにあるべきかを追究しています。

――採用学ではその研究対象を、どのような方法で評価・分析しているのでしょうか。

それぞれの問題にフィットしたものを使いますが、基本的には次のようなものです。

●現場の社員への徹底的なヒアリング
やはり、当事者に直接聞くことが一番の情報源です。面接では、どのような意図でどのような質問を投げかけたのか。現場ではどのような社員が活躍していて、その評価はどのようなものなのかなど、社員それぞれに具体的なヒアリングを行い、情報を収集していきます。

●アンケートによる調査
調査対象がたくさんいるため、個別にヒアリングすると時間がかかってしまう場合や、調査のコストを抑えたい場合に活用します。

●社内に蓄積されたデータ
面接時に使用した評価シートやメモ、入社後の人事評価など、社内に残っている記録をもとに分析を進めます。

●映像
近年はオンライン面接が増えているため、面接の映像をレコーディングして残すことが可能です。それをもとに、面接官がどのようなコミュニケーションをとっているのかを検証できるほか、当人とともに振り返ることもできます。

採用革新の成功の確度を掛け算的に押し上げる、2つのファクター

――これまでの研究によって、わかってきたことを教えてください。

日本の企業が採用革新を目指すとき、2つの大事なファクターが見えてきました。

(1)自社の人材要件が明確であること
採用に関して、人材要件は“一丁目一番地”であり、最も重要です。現場もそのことを理解していますが、意外にも自社に特化した人材要件まで落とし込めていないケースが多々あります。たとえば、コミュニケーション力と言っても、言外のニーズを察知する力を指している企業もいれば、相手にしっかり納得してもらう交渉力を指している企業もいます。採用革新が成功している企業は、こういった人材要件の解像度が高い傾向にあることが分かりました。また、その人材要件に沿った採用に対し、経営者が積極的に関わっている点も特徴です。

(2)採用活動を一丸で実施する社内体制があること
従来の採用活動は、リクルーター役を現場の社員にお願いすることはあっても、基本的には人事が主導でした。しかし、採用が成功している企業は従来の採用活動とは異なり、社内のネットワークを活用してステークホルダーを巻き込み、現場とフラットに議論することで現場の評価と乖離しないような採用活動を進めていることが分かりました。

これら、2つのファクターから見えてきた、採用革新に重要なことは以下の3つです。

・採用担当者が自社の人材要件の本質に向き合うこと
・採用活動を人事だけの責任にしないこと
・全社でコミットする体制が大切だということ

もちろん企業リソースは採用に影響するでしょう、しかし、企業の規模や採用の予算に関わらず、この2つのファクターが掛け合わさることで、採用革新の成功の確度が上がっていくと考えています。

手探りでしかなかった企業と求職者が、齟齬なく出会える社会を目指して

――採用学研究を通して、日本の採用の課題や問題点はどのようなものだと感じますか。

さきほどのファクターの一つ目でも触れましたが、やはり人材要件の言語化だと思います。優秀な人材を採用したいとき、自社にとっての“優秀さ”とは何を指すのかというところまで落とし込めている企業は多くはないでしょう。「コミュニケーション能力」「地頭の良さ」といった一般的な言葉に留めるのではなく、現場の業務に即して、もっと具体的に言えるようになることが、企業の採用担当者が取り組むべき最初の課題だと考えます。

――今後、採用学で解き明かしたいこと、体系化したいことはどのようなものでしょうか。

現在、研究対象の核になっているのが、採用活動の期間で起こる事象についてです。今後は対象の時間軸を拡大し、入社した人がその後どのように活躍していくのかまで追っていきたいと考えています。目標は、採用時に評価できないことの洗い出しと、入社後の育成と配置による影響を明らかにすることです。この成果によって、採用時の人材要件において重要度の低いものや、採用時にジャッジしないと育成や人事配置ではカバーしきれない問題が解明できるのではないかと期待しています。

採用学にとっては、採用活動そのものの効率化や最適化は、副次的な目的でしかありません。採用学が目指しているのは、企業が一律で優秀な人材を探すことではなく、人材をきちんと評価し、自社にマッチした人を見つけられることが当たり前になる社会です。その実現に役立つデータ分析やエビデンスの実証に、今後も注力していきたいと考えています。

▼この記事の後編

服部教授が語る「採用学」を企業が取り入れるためのポイント【採用賢者に聞く 第14回】

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服部 泰宏
神戸大学 大学院経営学研究科 経営学専攻
准教授

博士(経営学)(神戸大学)。専攻は人的資源管理論、組織行動論。滋賀大学専任講師、同准教授、横浜国立大学准教授を経て、2018年4月より現職。日本企業における組織と個人の関わりあいをコアテーマに、経営学的な知識の普及の研究、日本、アメリカ、ドイツ企業の人材採用に関する研究などに従事。2018年以降は、企業内で圧倒的な成果をあげ「スター社員」に関する研究も行っている。 2010年に第26回組織学会高宮賞、2014年に人材育成学会論文賞、2016年に日本の人事部「HRアワード」書籍部門最優秀賞受賞、2020年に労務学会賞(学術賞)などを受賞。