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採用ブランディングの成功事例を第一人者・深澤氏が解説 【採用賢者に聞く 第12回】

求職者に企業のファンになってもらい、「良い人材=自社にマッチした人材」の獲得率を高める採用ブランディング。取り組むことで、具体的にはどのような成果がでているのでしょうか。前編に引き続き、株式会社むすび代表取締役・深澤了氏にご登場いただき、事例をご紹介いただきます。採用ブランディングは、採用成功するだけではなく、経営のイノベーションにもつながるという深澤氏。事例を通じて採用ブランディングの真価に迫ります。

前編:採用ブランディングを体系化した深澤了氏に聞く!採用ブランディングの本当の効果とは【採用賢者に聞く 第11回】

すべてを採用コンセプトに紐付ければ、採用活動は一変する

――ご依頼を受けたクライアントについて教えてください。

不動産投資販売の企業で、当時は年間売上100億円以下の規模でした。不動産業界の場合、一つの土地や物件に、さまざまな企業が入れ子のように関わっているのが一般的ですが、この企業は、土地の購入からマンションの企画、建設、販売、管理まで一気通貫して手掛けている、業界でもユニークな存在でした。本社は都内の一頭地にあって、立地としても申し分ありませんでした。

――採用活動に関しては、どのような課題を持っていたのでしょうか。

人が集まりにくい業種だったため、なかなか求職者の応募がありませんでした。新卒は、入社する年の1月に、やっと5名揃うくらい。就職活動も終盤のため、大部分の学生が他の企業に内定しており、質の高い人材(=自社にマッチした人材)を獲得するのは困難でした。中途もほとんど採用できていなかったので、企業としては成長を続けているのに、人員不足に陥っていました。

■クライアント
・不動産投資販売会社(年間売上100億円以下 ※2022年現在は2倍以上に成長)
・ベンチャーで、業績は伸びているが、人員が足りていない

■採用状況
・新卒採用は1月まで追いかけ続けて、やっと5人程度内定
・内定者の質も希望に達していない
・中途採用は全滅

――課題解決に向け、採用ブランディングはどのように進めていったのでしょうか。

お客様とプロジェクトチームをつくり、まずは徹底的に企業の強みと弱みを洗い出しました。その後、ワークショップを通じてそれらを整理し、この企業にとって社員に必要な資質は何かを掘り下げていきます。

この企業の場合、強みとして見えてきたのは、「面倒見のよい社風」です。社内の制度上、担当者替えが毎年あるのですが、引き継ぎがものすごく丁寧でした。後任の担当者がしっかり結果を出せているのも、そのためだと感じましたし、社内全体によい連帯感がありましたね。

また、不動産投資販売の企業というと、契約1件あたりのインセンティブが破格なこともあり、ギラギラしたメンバーが多い印象でしたが、この企業は、非常に紳士的でした。担当する顧客が、弁護士、医師、上場企業の部長クラス以上というハイソサエティなため、相ふさわしいコミュニケーションが求められるためでしょう。そのような各界の一流の人と20代のうちから接してきたことで、人間的に磨かれるのだと思いました。

これらの認識を、ワークショップで共有した上で、打ち出した採用コンセプトが「人生は投資だ」です。「自分自身への投資」「会社の成長に自分の人生を投資」「事業である不動産投資」のトリプルミーニングとなっています。

■提案した採用コンセプト

「人生は投資だ」

各界の一流と出会うことで、自分が磨かれる。まだまだベンチャーだが人生そのものを投資として捉えるというスタンスが大切、という企業の考えを表している。

――採用コンセプトは、採用フローにどのように落とし込まれたのでしょうか。

説明会でのグループワークに落とし込みました。以前は、説明会を選考の一環と捉え、企業理解や仕事理解とは関係ないゲームに取り組んでもらい、人物像を見ることを主眼としていました。しかし、採用ブランディングに取り組んでからは、採用コンセプト「人生は投資だ」に紐付けて、グループで仮想の会社の設立にチャレンジし、企業理念や事業内容を考えるという内容に変更。彼らが担当する顧客に事業経営者が多かったため、企業の仕組みを知ることで、事業や仕事への理解を深めてもらうことがねらいでした。

また、以前のように漠然と“優秀であること”ではなく、採用コンセプトに示された“企業の価値観にマッチすること”を基準として、募集段階から採用フローを組み立てました。

この結果、以前は考えられないような超有名大学の学生が入社するようになったんです。しかも、採用競合が同業界から他業界の人気企業へ変化。それまで5人程度でしかなかった内定者が、12人まで一気に増え、その後もほぼ同じ水準をキープし続けている状態です。

■2018年卒採⽤状況
内定出し17⼈ 内定承諾/13⼈ 内定辞退/4⼈
(筑波⼤学、横浜国⽴⼤学、⽴命館⼤学、同志社⼤学など)

■2017卒採⽤状況
内定出し10名 内定承諾及び⼊社/8名
(法政⼤学、成蹊⼤学、愛知教育⼤学、東京国際⼤学など)

■2016年採⽤状況 内定出し17名 内定承諾及び⼊社/12名
(上智⼤学、法政⼤学、学習院⼤学、⾦沢⼤学など)

――採用ブランディングによる効果について、お客様の反響はいかがでしょうか。

「本当に、思ったとおりの人材が来てくれた」という声を多くいただきます。プロジェクトチームでのワークショップで、理想のペルソナをつくるのですが、まさにその理想のペルソナどおりの人が来てくれたと喜んでいただけます。ほかにも、採用ブランディングに取り組んだことで、「本当に求める人物像や、採用フローの課題に気づけた」という声も寄せられています。

いずれにしても、採用コンセプトの体現に向けたアクションをしっかり実行すれば、会社の規模、業種、地域に関わらず、何らかの効果を出せると自信を持って言えます。

「どうせ…」という負け癖を、社内から払拭する

――施策を考えるときのヒントをいくつかいただけないでしょうか。

施策は、企業の属性や業種によって異なります。

●地方の企業の場合
ターゲットは、やはり地元に戻ってくるUターン希望者になるでしょう。そのため、ペルソナを設定するときに、「地元に戻って働くことのメリットや意義」を要素として組み込む必要があります。ここをきちんと設定すれば、おのずと地方での生活に憧れを持つIターン希望者の心にも刺さる施策となるはずです。

●不人気業種の場合
たとえば、飲食業界などで、店舗を見せずにスーツ姿の社員を見せるという手法をよく見かけます。現場感を出してしまうと、嫌煙されてしまうのではないか?人が集まらなければ、選考すらできないのではないか?という恐れからだと思いますが、配属は店舗なのでこのままではミスマッチが起こって当然です。
「不人気だからこそ、現場を見せたくない」ではなく、採用ブランディングの観点からすると、「自分たちがこの商品やサービスに、いかに命をかけて取り組んでいるのか、なぜそこまで熱意を注ぐのか」ということを、包み隠さずに伝えることが大切だと考えます。

――2つのケースに共通して言えることはなんでしょうか。

採用がうまくいかない企業は往々にして、「どうせうちなんかに、優秀な人材が来るはずがない」という負け癖がついています。それを社内から払拭することも、採用ブランディングの大きな役割です。現場からメンバーを選抜して採用コンセプトをみんなで考えるワークショップを実施し、自社が誇るブランドを社内に浸透させることで、採用活動は大きく変化します。社内をブランディングできなければ、求職者に統一したイメージなんて訴求できっこないので、時間をかけてしっかり取り組むべきだと思います。

――採用ブランディングのプロジェクトを通じて、現場自体も変わりそうですね。

プロジェクトチームに参加したことで、業務に対するモチベーションが上がったという声をよく聞きます。参加メンバーが発信源となり、組織にも良い影響を波及できることが、採用ブランディングの効果の一つでもありますからね。企業によっては、活躍している人材を集めてリーダーとしての成長を期待するケースや、逆にくすぶっている人材にブレイクスルーのきっかけを与えるケースなど、さまざまな効果を期待してメンバーを構成することもあります。

採用ブランディングが特別なことではなくなる世界を目指して

――今後、採用ブランディングの普及のために、どのような取り組みをしていくのでしょうか。

より多くのお客様に、採用ブランディングのサービスを提供するには、社内のメンバーだけでは物理的に限界があります。そこで、2021年に認定ディレクター制度を創設しました。体系化されている採用ブランディングについて、定期的にトレーニングを実施するなど、ディレクターの活躍を支援する制度です。2022年2月現在、全国に11人のディレクターがおり、各地で採用ブランディングに取り組んでもらっています。将来的には、採用ブランディングをSaaS化する構想もあり、企業にとって採用ブランディングがより身近なものになることを目指しています。

――採用ブランディングを広く普及させることで、最終的に実現したいことはありますか。

経営のイノベーションです。経営の悩みは、大きく分けると「お金」と「人」の2つです。採用ブランディングは、このうちの「人」の問題を解決に導くものです。そもそも、人材不足を訴える企業は、仕事がたくさんあって事業が伸びているわけですから、「人」という部分のボトルネックを取り払えば、一気に成長する可能性があります。

今、採用市場では、「人が集まらないため、媒体にどんどん投資するしかない」という、無限地獄のような状況に陥っている企業が少なくありません。そして、最終的には、採用にかける予算が多いか少ないかで勝負が決まってしまうような節すらあります。そのような閉塞した採用市場に採用ブランディングは、風穴を開けられるのではないかと考えています。

くり返しになりますが、採用ブランディングは、不特定多数を集めて選ぶのではなく、狙った人にきっちりアプローチしていくものです。入社する人材と会社とのマッチ度が高いため、“3年以内に3割辞める”という業界の常識も覆せるようになるかもしれません。採用ブランディングが当たり前になる、そんな世界を目指していきたいですね。

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この記事の著者

深澤 了
むすび株式会社
代表取締役

ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター。早稲田大学卒業後、広告代理店にてCMプランナー/コピーライターののち、パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ。企業、商品、採用領域の戦略・戦術づくりから、広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。著書は「知名度が低くても“光る人材”が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)など。受賞、登壇、雑誌掲載多数。