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採用ブランディングを体系化した深澤了氏に聞く!採用ブランディングの本当の効果とは【採用賢者に聞く 第11回】

採用市場において、「知名度や人気のある企業には勝つことができない」と半ば諦めている採用担当者は多いかもしれません。しかし、株式会社むすび代表取締役・深澤了氏は、自身が体系化した「採用ブランディング」に取り組めば、企業規模の大小に関わらず、採用市場で対等に戦うことができるようになると語ります。今回は、採用課題を解決に導くための救世主となりうる「採用ブランディング」について、第一人者である深澤氏に、前・後編の2回にわたってお話を伺っていきます。

採用のステークホルダーに、“ファン”をつくる

――深澤様は「ブランディング」という言葉をどのように定義されていますか。

「ブランディング」に関しては、さまざまな説明が世に出回っていますが、どのような視点と角度で見るかによって、その定義の仕方も変わってくるでしょう。そのなかであえて私の言葉で定義すると、「ブランディング=ファンづくり」とするのが、一番シンプルではないかと思っています。つまり、“企業が「このように見られたい」と掲げているイメージがそのまま、ステークホルダー(消費者)にもそのように思ってもらえている状態”が、ブランディングで成し遂げたいことだと考えます。

まず、ブランディングとブランドの関係について簡単にお話しましょう。ブランドとは、消費者が企業や商品に抱いているイメージのことです。一方、ブランディングは、企業が自身のブランドを消費者にイメージしてもらうことなので、そもそも主体が違います。
ブランドマネジメントの第一人者であるアメリカのケビン・レーン・ケラー教授は、「ブランド=強くて、好ましくて、ユニークなものの総体」と定義しており、それを企業として作り上げていくことが、ブランディングというわけです。

やもすると、ブランディングとは、「統一されたデザインやコピーで、ブランドイメージを世の中にプロモーションすること」と思われがちです。確かにプロモーションは、ブランディングの施策の一部ではありますが、もちろんすべてではありません。たとえば、ブランディングには、組織づくりの側面もあります。そのブランドの理念に共感し動くことのできる社員を育てる、あるいはエンゲージメント(帰属意識ややりがい)を育むことも、ブランディングに含まれているのです。すなわち、企業がステークホルダーに対して実施する施策のすべてがブランディングにつながることになります。

――ブランディングの手法や概念を採用にむすびつけたきっかけはありますか。

きっかけは、前職の会社で大手求人媒体に掲載する求人広告の制作を手掛けていたことです。そのなかで、顧客課題の分析、ターゲットの設定、競合優位性の抽出、訴求の仕方といった、採用ブランディングの考え方のフォーマットが形作られていきました。実際、この考え方に則って広告を作ると、一気に採用者数を伸ばすことができたんです。

そんななか、会社が新規事業として企業や商品のブランディング領域を開拓することになりました。インプットとして、ブランディングを専門に手掛けるグローバル企業のご出身だった方に指南いただいたのですが、ブランディングするときの思考回路が、私たちが求人広告を制作するときのそれとほとんど一緒だと気づいたのです。
「ならば、私たちがあみ出した求人広告制作の思考回路を、お客様に直接提供しよう」というアイデアが生まれました。お客様を巻き込んでプロジェクトチームを結成すれば、お客様が自走してブランディングできるようになると考えたんです。そこで、これまで手掛けてきた採用市場を足がかりに採用ブランディングのサービスをつくりあげていきました。その後、今の会社を設立するわけですが、前職で提供していた採用ブランディングのサービスをブラッシュアップして、さらなる理論化、体系化をおこないつつ、サービスの提供をしていきました。

――改めて、深澤様が提唱する採用ブランディングの定義や概要を教えてください。

採用ブランディングとは、「採用市場において、強くて、好ましくて、ユニークなイメージをつくりあげていく」ことです。一般的なブランディングのターゲットは、すべてのステークホルダーですが、採用ブランディングは、そのなかでも(潜在的な)求職者に訴求するものです。しかし、それは単なる入口にすぎません。採用市場でのブランディングに成功すれば、その企業で働きたいという優秀な人が集まるようになり、その人たちの活躍が企業の価値を高めていきます。それは、結果的に企業全体のブランディングにもつながっていくのです。

採用ブランディングの4つの特徴とそれぞれの効果

――深澤様は著書 (※)で「自社の価値をコンセプト化すると採用はうまくいく」と書かれていますが、それはなぜですか。

※著書:「知名度が低くても〝光る人材〟が集まる 採用ブランディング 完全版」

コンセプト化することで、求職者への訴求イメージを統一できるからです。採用市場では、大手求人系企業から独立した人が多く、さまざまサービスを提供しています。そのサービス内容は、媒体での母集団形成、説明会の設計、リファラル採用専門など多岐にわたって細分化されています。それぞれがベストプラクティスを提供しているのですが、いずれも採用活動の一部に特化しているため、訴求イメージがバラバラになりがちに…。ブランド論の視点から考えると、イメージが散らばってしまうことは、好ましくありません。
逆に、採用ブランディングでは、自社の価値をコンセプト化し、すべての採用施策を一貫して取り扱い、統一したイメージで訴求します。これによって、効率的に採用活動を進めることができるので、採用成功の確度が高まるというわけです。

――コンセプト化するにあたって、注意しなくてはならないことはありますか。

統一したイメージを訴求するという点で見落とされがちなのは、ターゲットである求職者と企業が直接的に接点を持つときです。この接点は、求職者の動機づけに大きな影響を与えるため、非常に重要な意味を持っています。もし、面接官や社員あるいは人事担当者の言動と、求人広告や入社案内、採用WEBページなどで発信している内容に一貫性がなければ、求職者はブランドイメージを効率的に形成できず、離れていく可能性が高くなります。知名度のない企業がこのような採用をしていると、すでに好ましいイメージのある大企業には永遠に勝てません。
しかし、採用ブランディングによって社内の意思統一を図ることができれば、求人媒体や自社採用ページなどで発信している情報と同じことをメッセージとして発信でき、求職者はブランドイメージを効率的に形成できます。これは、企業規模の大小に関わらず、採用活動での勝機につながると考えます。

――採用ブランディングの特徴と効果について、教えていただけますか。

採用ブランディングの特徴と効果としては以下の4つがあります。それぞれについて解説します。

1.即効性(1年以内の効果)

中途だと早くて1カ月、新卒でも2カ月くらいで、成果が現れ始めます。採用活動はサイクルや期間が決まっており、その都度結果も出るため、PDCAを回しやすいのが特徴です。そのサイクルの中に、採用ブランディングを組み込めば、時間がかかったとしても新卒採用のサイクルである1年以内には、その成否が明確にわかるはずです。

2.応募と採用者の質の向上

求職者は、企業のWEBサイトを見て、仕事内容や社風などを判断します。そのため、採用ブランディングで決めたコンセプトに忠実なデザインやコンテンツで、WEBサイトを作成することが肝心です。企業独自のコンセプトに立脚することになるので、具体性のある表現によりインパクトが増し、多くの 応募者求職者の興味・関心を喚起させます。さらに、WEBサイトのコンテンツに触れて、求職者もブランディングされているので、母集団の質(=自社に対するマッチ度)は自然と高まります。

ちなみに、WEBサイトは、「母集団の質を高めるもの」、パンフレットは、「内定承諾率を高めるもの」だと考えています。パンフレットはWEBサイトよりも深い情報を込めることができます。一覧性もあるため情報の伝達スピードも早くなります。そのため、より深くブランドイメージを形成でき、内定承諾を検討する際の一助となり得ます。このように、媒体によって目的が異なることを意識するのも、採用ブランディングでは重要なポイントです。

3.ジャイアント・キリング(大手企業を蹴って自社へ)

採用ブランディングは、企業規模の大小に関わらず、どの企業も同一線上で取り組むことのできる施策です。特に採用市場においては、直接顔を合わせて求職者にブランディングできれば、どの企業にも勝機があると考えます。

4.予算削減(質と数が同じならば)

採用ブランディングによる施策は、コストを掛けて大きな母集団を形成し、そのなかから厳選していくというものではありません。“超”理想のペルソナを決めて、それに近い人材にアプローチする施策です。だからこそ、出会ったときに、その場で口説くこともできますし、プロモーションでのメッセージがより深くなることで、理念共感しやすい(=価値観が合いやすい)母集団形成ができます。

たとえば、超理想型の人材は、入社後、周囲にとってオピニオンリーダー的な存在になり得ることがあります。すると、「あの人がいるから入社しよう」とその人材の後輩らが入社を希望するようになり、スムーズなリファラル採用も期待できます。このようなリファラル採用による入社が継続して、採用数が一定になれば、新たな施策を打つ必要がなく、予算も抑えられるでしょう。何より、採用ブランディングは一度成功すれば、求める人材がガラリと大きく変わらない限り、新たに戦略を練り直す必要がありません。継続的な効果を望めるため、長期的な視点から見ても、採用コストの削減を目指せます。

にわかに注意!“ホンモノ”の採用ブランディングだけが得られる効果

――著書(前掲) の中で、「にわか採用ブランディングに注意」と書かれていますが、この意図を教えてください。

「にわか採用ブランディング」とは、たとえば、流行りの映像をふんだんに盛り込み、企業WEBサイトを一新するような、表面的な見え方の改善に終始しているものです。確かにWEBサイトは採用ブランディングの上で、重要な役割を持っていますが、それはあくまで一施策であり、採用ブランディングの本質ではありません。「ブランド=強くて、好ましくて、ユニークなものの総体」をつくるため、統一コンセプトですべての施策を実施する、というブランディングの公式に則るからこそ、効果を望めると考えています。

――採用ブランディングの施策には、どのようなものがあるのでしょうか。

具体的な戦術は、目標とする採用予定人数から逆算して考えます。新卒を5人採用したい場合は、逆求人でオファーを出す方がコストパフォーマンスがよいでしょうし、年間30人採用したいとなると、大手求人媒体を使った方がいいでしょう。どの媒体を使ってどのようにターゲットに訴求し、どのような企画を立てるのか考えるときは、先述した採用コンセプトがよりどころとなります。

――最後に、採用ブランディングに取り組むべき企業は、どのような企業だと思われますか。

下記に一つでも当てはまる企業は、一度、採用ブランディングに取り組むことをおすすめします。

・年間を通して、中途、新卒をあわせて5人以上採用したいが集まらない
・選考を途中離脱されてしまう
・内定承諾してくれない
・入社してもすぐ辞めてしまう

採用ブランディングは、採用活動におけるさまざまな課題を、一気に解決する可能性があります。しかも即効性があるため、意思決定がスピーディで小回りの効く企業ほど、採用ブランディングは威力を発揮するでしょう。ぜひ、自社とマッチする人材を確実に採用するために、採用ブランディングを役立ててほしいと思っています。

後編:採用ブランディングの成功事例を第一人者・深澤氏が解説【採用賢者に聞く 第12回】

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この記事の著者

深澤 了
むすび株式会社
代表取締役

ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター。早稲田大学卒業後、広告代理店にてCMプランナー/コピーライターののち、パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ。企業、商品、採用領域の戦略・戦術づくりから、広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。著書は「知名度が低くても“光る人材”が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)など。受賞、登壇、雑誌掲載多数。