sonar HRテクノロジーが発信する、
採用と人事の情報メディア

専門家コラム

- Column -
専門家コラム

ツナグ働き方研究所・平賀氏が語る、今注目のHRテック4サービス【識者に聞く 第4回】

採用をはじめ、労務や勤怠管理、人事管理、育成など、人事担当者は多くの業務をこなす必要があります。このような人事領域の業務を効率化するために、注目を集めているのがHuman ResourceとTechnologyをかけ合わせた「HRテック」です。今回、このHRテックについて話を伺ったのはツナグ働き方研究所 所長の平賀充記氏。平賀氏は「ツナグHRテックコンソーシアム」を設立されたHRテックに造詣が深い方です。前編の「コロナ禍における新卒採用」に引き続き、現在平賀氏が注目しているHRテックについてお話をしていただきました。

時代に求められたのは「管理」ではなく、組織・従業員に価値をもたらす成長支援サービス

――HRテックのトレンドを教えてください。

HRテックは、最初は人事部門のためのサービスでしたが、アメリカでは「ワークテック」と呼ばれるようになり、徐々に現場で働く人のためのサービスとして広がりを見せていきます。その代表的な事例が「タレントマネジメントシステム」から「タレントマーケットプレイス(※)」へのトレンド移行。従来、人事管理の代替システムだったHRテックのシステムが、従業員の成長や会社とのエンゲージメントを実現するシステムへと変化していく。これが、今後のHRテックのトレンドになっていくのではないでしょうか。

(※)タレントマーケットプレイス
従業員のスキルやキャリア、担当したプロジェクト、キャリアビジョンを基に、社内のプロジェクトや仕事と従業員をマッチングする概念やサービスを指す。最適な異動・キャリア開発を行うのに最適なサービスとして注目されている。

コミュニケーションの質を上げ、1 on 1を支援する「カケアイ」

――注目すべき一つ目のHRテックを教えてください。

「カケアイ」という1on1支援サービスです。コロナ前からあったサービスで、多くの賞を受賞しています。
そもそも、コロナ前から1on1は企業のマネージャーにとって大きな課題でした。1on1のアジェンダがない状態で、ただの雑談で終わってしまう、ということが往々にしてありました。
「カケアイ」では、メンバーがWEB上で面談を申し込みます。ミーティングや面談の場でどのようなことを話したいか、アジェンダとして事前に入力してもらいます。このように、スケジューラーに登録させることでマネージャーとの1on1を申し込むことができるのです。マネージャーとしても部下の話したいことを事前に知ることができるので、1on1を実施してもすれ違いを軽減できる仕組みになっています。

――なるほど。1on1という時間を有意義に活用できるようになっているのですね。その他、どのような機能、魅力があるのでしょうか。

マネージャーに対しても、アドバイス機能が発動する仕組みになっています。メンバーが話したいことに対する模範解答の事例などを確認できるので、スムーズなコミュニケーションの支援をしてくれるんです。

さらに、1on1の場では、システム上にメモページが出てきて、会話しながら記入もできます。もちろん、このメモは非公開になっているので、面談をする2人の間でしか共有されません。1on1は継続して実施することが肝なので、前回の面談でなにを話したかを記録しておくのは重要なんです。このようにメモを残すことによって、次回、次々回のアジェンダにもつながり、より充実した1on1を実現することができます。

コロナ禍で、テレワークが普及し、対面で接する機会は大幅に減少しました。オンラインでメンバーとのコミュニケーションをどのように取っていくかは、企業の大きな課題です。オンラインコミュニケーションの手段として、リモート1on1はさらに重要度を増していきます。そして、その1on1をサポートしてくれるのが「カケアイ」です。

サービス名KAKEAI
基本情報上司と部下のコミュニケーション改善を支援するクラウドサービス。 HRテクノロジー関連アワードを多数受賞しており、ニューヨークやロンドン、シンガポール、香港などでも利用されている。
ポイント従業員の負荷を減らした質の良い1on1を実現するだけでなく、マネジメント力を向上するための機能も搭載。SlackやMicrosoft Teamsとの外部連携も可能。
URLhttps://kakeai.co.jp/

日本初、タレントマーケットプレイスを実現する「muuv」

――注目すべき2つ目のHRテックを教えてください。

日本にはタレントマーケットプレイスのサービスはそれほど多くはありません。そんななかで、「muuv」は日本初のタレントマーケットプレイスと言われ、注目されています。

45歳定年制が提唱されたり、生涯現役という言葉が生まれたりするなかで、これからの時代は、自分の経験やスキルに対し、自覚的である必要があります。ただ、こういったことを人事担当者が言っても、従業員にはなかなか受け入れてもらえないのが現状です。「muuv」は、自発的なスキルアップや活動を促進してくれるサービスなので、人事担当者がアクションを起こさずとも、キャリア迷子問題をサポートしてくれます。

――具体的には、どのような機能があるのでしょうか?また使い方についても教えてください。

自分の興味や関心、今後のキャリアパスについて入力すると、「muuv」がそれらの知見を持った社内の人を紹介してくれます。また、社内公募やプロジェクトへの参画、社内副業のような部署を越境する機会を提供してくれます。社内にいながらにして、今までつながっていなかった人とつながることができ、新たな情報を仕入れることを可能にした画期的なシステムだと言えるでしょう。

昨今、多くの企業では、リスキリング(※1)やリカレント教育(※2)をどう拡充させるかという課題を抱えています。そもそも新卒を採用しても、「彼らをどのように成長させるか」というところまで考えて、投資できている企業は多くありません。

(※1)リスキング
働き方の多様化などによって発生した新しい職種・業種に就くため、あるいは、現在の職種で必要なスキルの大幅な変化に適応するために、人材を再教育すること。

(※2)リカレント教育
リカレントは「繰り返す」「循環する」という意味の言葉。リカレント教育とは、社会に出た後、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことを指す概念。

――今後は、自身のキャリアパスを考えながら働くことが当たり前の時代になるのでしょうか。

今後、定年までをワンキャリアでやっていくのは難しい時代になっていくでしょう。そして、同時にすべての働く人が、新しい学びやスキルアップを考えなければならない時代になりつつもあります。そういった潜在的な課題に対応するのが「muuv」です。人事部門の手間も省け、自律的なキャリアの形成にもつながるツールと言えるのではないでしょうか。

サービス名muuv
基本情報日本初のタレントマーケットプレイスとして誕生したクラウドサービス。従業員のスキルや経験、価値観を可視化し、社内間での最適なコラボレーションを促進する。
ポイントMicrosoft IDとの連携によりTeams上で稼働。muuv自身が情報を更新するため、従業員に負荷をかけることなく、最適な成長機会やキャリパスを提供することが可能。
URLhttps://muuv.ai/

先天性(情動パターン)と後天性(心の筋力)に分けて可視化する「PSA」

――注目すべき3つ目のHRテックを教えてください。

適性検査系のツール「PSA」です。PSAとは「Personality Spectrum Analysis」の略称で、精神医学と大脳生理学をベースにしたパーソナリティ診断ツールです。先天性と後天性の両軸でサーベイします。人には「生まれながらの変えられない自分」と「経験や学習で変えられる自分」の面があり、その2つに分けて可視化をすることで、自己をより深く知ることができ、行動変容につながるきっかけを与えます。

――具体的に、この診断を行うことで、どのようなメリットがあるのでしょうか。

「生まれながらの変えられない自分」は「個性」なので、そもそも自分がどのような人間で、どのような仕事に向いているのか、ということになります。大事なのは、これを自分だけではなく周囲の人も理解すること。相互理解が生まれて、お互いに仕事がしやすくなります。一方で「経験や学習で変えられる自分」は変動していくものなので、定期的にスコアをつけることで、自分のコンディションが分かるようになります。このように、「PSA」を活用することで、個性だけではなく、個々の可能性を活かしあえるチームづくりができるようになり、企業とのエンゲージメントを高めることが期待できます。

――診断結果をどのように活用することが望ましいでしょうか。

ここで大切なのは、「PSA」で示される結果を、人事だけでなく本人も活用するということです。1on1の場で上長が部下に「自分はこういう人間だから、この部分が弱い。だから、ここをあなたに助けてほしい」とPSAをもとにした自己開示を行うことで、上司と部下のコミュニケーションが取りやすくなった例もあります。1on1がうまくいかなかったり、さまざまな組織課題を抱えていたりする企業の課題解決の一助となり得るツールと言えるのではないでしょうか。

サービス名 PSAパーソナリティ診断

サービス名PSAパーソナリティ診断
基本情報従業員の適性を可視化するサービス。従業員のパーソナリティを見極め、採用シーンや配置・異動、育成・評価、定着のシーンなどで活用。
ポイント精神医学に基づいて思考のクセやメンタルの状態を言語・数値化。また、カラーイメージで先天的な性格や資質を可視化することにより、組織内での関係性を改善。
URLhttps://www.e-bridgec.net/

360度動画を使った採用ツール「AQ360PR」

――注目すべき4つ目のHRテックを教えてください。

ここまでは人材のモチベーションやエンゲージメントを高めるツールを紹介してきましたが、最後に採用力を強化するツールをご紹介します。それが「AQ360PR」です。これは360度動画を用いて、面接を行えるサービスです。

――360度動画が採用力強化にどうつながるのが詳しく教えてください。

そもそも動画はテキストや写真に比べて5千倍の量の情報を伝達できるといわれています。私自身、リクルートで採用メディアを多数開発・運用してきましたが、なによりもこだわってきたのは、企業のリアリティを伝えることでした。近年、動画を使ったPRを行う企業は増えていますが、正直、社員インタビューや密着ドキュメンタリー動画などであれば、見せたくないものは隠すこともできますし、そこそこキレイにつくれてしまいます。一方で360度動画は、その特性からも隠すことができません。企業のありのままを赤裸々に映し出してしまいます。それがいいんですよね。このことがミスマッチを防止し、最終的に採用力の強化にもつながっていくのです。

360度動画によって、オフィスで働いている姿を見せたり、生産工場を持っている企業であれば生産ラインを見せたりして、現場のリアルを伝えることができます。動画というツールは今の時流にも合っていますし、なによりオンライン面接が増えるなかで360度動画を使って会社のありのままの姿を見せれば、学生にとって大きな安心材料になるでしょう。

――ありがとうございます。応募者にとって魅力的なサービスである一方、企業側にもメリットはあるのでしょうか。

もちろんあります。リアルな内幕をさらけ出すということは、非常に勇気のいることです。しかし、採用から定着までを考えると、どこかで本当の姿を見てもらうことも必要だと思います。企業の良いところも悪いところもひっくるめて見てもらえたなら、ミスマッチを抑えることもできます。それが最終的な採用成功のゴールです。そういった意味で、このツールは非常に優れているのではないかと思います。

サービス名AQ 360PR
基本情報採用広報やPRなどを強化したい企業に向けた360度動画制作サービス。Googleストリートビューのように360度自由に動かしながら動画を見ることができ、パソコンやスマートフォンでどこでも視聴可能。
ポイントテキストや2D動画では伝えられない情報(働く人々やオフィス、職場の雰囲気など)を提供し、求職者が本質的に求めているリアルな疑似体験を直接届けることが可能。
URLhttps://aq360pr.themedia.jp/

企業課題を直視して、課題解決の一助となり得るツールを選ぶ

――最後にHRテックを導入する際のポイントや注意点などがあれば、教えてください。

HRテックは多くのツールがリリースされています。とはいえ、これらはあくまでもツールにしか過ぎず、導入するだけで企業課題を解決できるものではありません。ツールをうまく使い、導入した後のソリューションを構築することがなにより大切です。

HRテックを導入したいと考えているのであれば、まず、自社の課題はなにかを把握する必要があります。そして、その課題を解決に導くために、どのようなツールが必要なのかを考えて、導入後は使い方なども含めて、現場にしっかりと浸透させて落とし込んでいくことが重要です。導入の目的、ツールの使い方、アフターフォローなど、担当者同士の意思を十分に共有してください。HRテックは企業の課題解決をサポートするツールの一つであることを理解し、ソリューションの中に組み込む、という意識を持って導入してほしいと思います。

この記事をシェアする

この記事の著者

平賀 充記
株式会社ツナググループ・ホールディングス
エグゼクティブ・フェロー兼ツナグ働き方研究所所長

リクルートフロムエー(現リクルート)に入社後、タウンワーク・FromA・とらばーゆ・ガテン・はたらいくなど主要求人媒体の全国統括編集長を歴任し、メディアプロデュース統括部門担当執行役員を経て、2015年ツナグ働き方研究所を設立し、多様な働き方の研究家に転身。30年以上にわたり観察を続けてきた「若者の採用や定着・活躍」について造詣が深い。近著に「神採用メソッド」(かんき出版)、「なぜ最近の若者は突然辞めるのか」(アスコム)がある。