コロナ禍における新卒採用で変わったもの、変わらなかったもの【識者に聞く 第3回】

2019年末から新型コロナウイルス感染症が流行し、人々の生活様式や働き方は大きく変化しました。コミュニケーションが対面からオンラインへと移行したことで、新卒採用の現場も変化を求められたことでしょう。コロナ禍で変わらざるを得なかったこと、変わらなかったことはなんなのか、そして今後の新卒採用はどのような方向に進んでいくのか、ツナグ働き方研究所 所長の平賀充記氏に語っていただきました。
採用活動が長期化した一方で生まれた、新たなチャンス
――新型コロナウイルスが新卒採用の現場に与えた影響はどのようなものだったのでしょうか。
端的にいうと、売り手市場だったものが、急激に冷え込んだということです。2019年卒の大卒求人倍率が1.83倍だったのに対して、2020年卒は1.53倍と0.3ポイントも下がりました。これはリーマンショック以来の下がり幅です。一方で2021年度卒の大卒求人倍率を見ると1.50倍で、下げ止まった印象を受けます。

大卒求人倍率が激しく変動したリーマンショック時と比較してみましょう。2008年度卒の大卒求人倍率は2.14倍でした。しかし、2009年卒では1.62倍と一気に0.52ポイント下落し、その後も2010年度卒が1.28倍、2011年度卒が1.23倍と長期にわたって下落し続けました。

対してコロナ禍の2021年度卒の数値を見ると、2020年度卒とそれほど変わっていないことが分かります。経年比較をした場合、1.50倍という数字は決して低い数字ではありません。まとめると、コロナ禍での採用市場の冷え込みは短期で収まりつつあり、このことは企業にとって「採用がラクになったわけではない」ことを表しています。

興味深いのは、上のグラフで示しているように、従業員規模別でみた数値の推移です。従業員規模5千人以上の企業の場合、コロナ禍前も後も0.5倍くらいで推移しているのに対して、従業員規模300人未満の中小企業では2019年度卒8.62倍から2020年度卒3.40倍と大幅に下がりました。しかし、2021年度卒では5.28倍と反転。一気に売り手市場に戻っていることが分かります。新卒採用市場を需給バランスで捉えると、コロナ前の厳しい状況に戻っていきそうな気配を感じられます。
(出典:リクルートワークス研究所)
――企業の採用活動でもっとも変化したことはなんでしょうか。
オンラインでの対応をしなければならなくなったことに尽きるでしょう。
コロナ禍でオンラインでの採用活動を余儀なくされたことによって、最初は企業側も学生側も相当戸惑いました。企業側としては、「オンライン面接での評価に自信が持てない」、「面接で動機形成を行いたくても、熱量が伝わりにくい」という課題がありました。
一方、学生側にとっても、「本気で口説かれている感じがしない」、「面接での手ごたえを感じない」などの不安が広がりました。そういう心境が、複数の内定を持っておきたいという状況を作り出したのかもしれません。そして、その結果、採用活動が長期化してしまったのです。
――採用のオンライン化・長期化は企業・学生にとって、どのような影響を及ぼすのでしょうか?
採用活動の長期化は、企業にとっても、学生にとっても負担がかかります。
しかしオンライン採用には、メリットもあります。今まで出会えなかった企業と学生が出会えるチャンスが増えているということです。たとえば地方の企業にとっては、「物理的な距離」というネックがなくなるわけですから、採用のチャンスは増えます。テレワークやワーケーションが広まってきた結果、東京じゃなくても働くことができるし、むしろ地方のほうが豊かな生活を送ることができるという意識も高まっています。だからこそ、こういった“オンラインの恩恵”をポジティブに捉え、オンライン採用を積極的に取り入れるほうがよいと思います。
「安定を求め長く働く」から「ステップアップ」のための踏み台へ
――逆にコロナ禍でも変わらなかったことはなんでしょうか。

学生の「大手志向」、「ブランド志向」は変わりませんでしたね。しかし、これはあくまでも表面上のことで、学生の意識における「大手志向」「ブランド志向」は今までとはまったく違うものになってきています。
――具体的にどのように異なってきたのか教えてください
従来の「大手志向」は、安定を求め、その会社で長く働くことを目指していました。ところが最近では、転職や副業に有利になるという理由から大手を希望する学生が増えています。知名度がある有名な企業に新卒で入社し、自分のやりたいことが見つかった時点でベンチャー企業などに転職する、というパターンです。最初から自身がやりたいことをやれる場所に飛び込むわけではなく、まずは大手企業に入社して、自分の市場価値に“箔”をつけようという意識に変化しているんです。
いうなら、就職を「学歴の上書き」に使っているような感覚です。学生にとって、大企業は自身の経歴を彩る“踏み台”なんです。ただ表面上は、大手企業への入社志望度は高いという事実は変わりがないので、企業選定の志向としては「変化なし」と見えているんですね。
求められるのは、時代の変化を汲みとったハイブリッド型の採用活動
――そのような変化を企業の人事担当者はどう捉え、どういったアクションを起こすべきだとお考えですか。
今後の新卒採用を大局的に考えると、学生の価値観や就業意識の変化を無視しては成立しなくなると考えています。デジタルネイティブと呼ばれる世代に続いて、今後はリモートネイティブと呼ばれる世代が就職市場に現れることになります。たとえば、2020年のコロナ禍で大学3年生だった学生は、ほとんどのことはオンラインでできてしまうことに気がつきました。これは、対面で会うことの必要性が希薄になったことを意味します。そういった新しい価値観を持つ学生への対応に配慮していかなければ、いくら大手企業とは言え、選ばれなくなるでしょう。
――つまり、企業は今後、リアルよりもオンラインでの面接をメインに対策をしなければならないということでしょうか。
リアルでの面接という選択肢を捨てる、ということではありません。学生側も、オンライン面接だけで意思決定をすることに不安を抱えていることは確かです。本音を言えば、オフィスを訪ねて、自分の目で会社の雰囲気を見てみたいと思っていることでしょう。同じように企業側にとっても、動機形成をするのであれば対面のほうが有効なので、できればリアルで会いたいというのが本音だと思います。
そういったことを踏まえると、今後の採用活動はオンラインとリアルのハイブリッド型が主流になっていくのではないでしょうか。序盤戦はオンラインで面接を行い、最終的な見極めや意思決定は対面、といった流れに収れんされていくと思います。オンラインをうまく使って学生との接点を増やし、感染対策などをしっかりと行った上で、リアルで会う場をつくる。これからは、そういった活動が求められていくと思います。
――リアルな面接が無くなる訳ではないと聞いて、安心した採用担当者も多いかと思います。とはいえ、今後「オンライン化」が進む中で、多くの企業が悩みを抱えながら進めているのが現状です。「オンライン採用」という課題に対する解決策は何かあるのでしょうか。
「構造化面接」という手法があり、これを採用担当者に学んでもらうことで、オンラインであっても見極めができやすくなります。また、ホームページの充実も必須だと考えています。それぞれ解説していきましょう。
・構造化面接 構造化面接とは、具体的に言うと、「面接のマニュアル化」です。求める人材要件の定義を行った上で、どのようにしてその人材を見極めるか。ここがムズカシイ。面接に来た学生が人材要件に合っているかどうかは、その人材の過去の行動からしか見極めることはできません。つまり、人材要件を満たしているかどうかは、どのような行動をしていたことが望ましいかを、まず考え、質問に落とし込む必要があるのです。そしてその過去行動のレベル感を採用基準に落とし込み、最終的には採用担当者全員で共有する、その一連の流れを構造化面接と呼んでいます。これまでは、自身の感覚を頼りに(属人的に)採用面接を行っていた企業が多かったのですが、オンラインではその感覚に頼れないことも多く、このようなメソッドを導入する企業が増えてきました。 ・ホームページの充実 ホームページは学生にとって、企業とのファーストコンタクトの場です。ホームページがしっかりしていない企業は入社してからの自分を具体的にイメージすることもできないこともあって、その時点で学生の選択肢から外されてしまうことになります。ここでいうホームページとは、採用ページだけではなく、企業のオフィシャルなホームページを指しています。学生は必ずホームページ全体を回遊しますから、オフィスを見学してもらうつもりでホームページを充実させてほしいと思います。 |
――コロナ禍によって変化を強いられている人事担当者へメッセージをお願いします。
コロナ禍によって採用活動は大きく変化しましたが、採用活動の本質的な部分は変わっていないように思います。オンライン採用で大切なのは、企業の魅力をどのように学生に伝えるか、そして学生をどのように見極めるかです。そのためには、先述のように、ホームページを充実させ、構造化面接を導入することが大事になってきます。それらに加え、ウィズコロナ・アフターコロナ時代においては、面接後のケアも必要になってきます。内定を出した後は、宿題を出したり、面談を行ったりして、接触機会を多くつくってください。コミュニケーションを増やすことが、内定辞退者を減らすことにつながります。いずれにしても、コロナ禍によるオンライン化の流れをチャンスと捉え、対応していくこと。この意識が何よりも大切です。
後編:ツナグ働き方研究所・平賀氏が語る今、注目のHRテック4サービス【識者に聞く 第4回】(2022/3/30公開予定)