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高度人材を求める企業が大学院修了者を採用する価値と採用手法【採用賢者に聞く 第10回】

ジョブ型雇用がトレンドになりつつある今、採用の現場でも大きな変革が求められています。従来のメンバーシップ型とは異なる価値観、つまり「自社の事業内容に必要なスキルを有している人材」を見極めるために、専門性の高い大学院修了者を採用することも選択肢のひとつとなり得ます。新卒採用で大学院生を採用する価値や、自社に合った大学院生を採用するための手法などを、前半に引き続き株式会社アカリクの山田諒氏にお聞きしました。

前編:変わる日本の雇用の今。高度人材に絞った採用が生まれた背景とその影響【採用賢者に聞く 第9回】

研究を通して培われた業務遂行スキルなどの能力が、そのまま企業で活かせるという強み

――大学生と大学院生にはどのような違いがあるのでしょうか。

何よりも研究活動にかけてきた時間が圧倒的に違います。大学院生は、一つのテーマに対してPDCAを回し、成功する方法を模索する「業務遂行スキル」が研究活動を通して養われていきます。また、博士課程まで行けば、ティーチングアシスタントとして学部生(一般の大学生)を教育することもあるため、「育成スキル」も備わるでしょう。このように、研究活動や教育経験を通して能力を養う機会が多く、企業でも役立つ業務遂行スキルや教育スキルなどを学生のうちから有しているのが、大学院生の特徴です。
これは、今までメンバーシップ型雇用でかかっていた教育コストを大幅に軽減することにもつながります。彼らは自分で考え、実行する能力がありますから、ポイントとなる場面でこちらが軌道修正さえすればしっかり自走してくれます。育成のスキルもあるため、同期の学部生の教育などを任せられることもあります。研究はチームプレーの側面を持っているため、自分だけが抜きん出ようとする人はあまりいません。むしろ、同期ネットワークのハブになっているという事例をよく聞きます。
また、副次的ではありますが、大学の研究室の後輩を自社に引っ張ってきてくれるなど、リクルーティングに効果をもたらすこともあるようです。

――企業が抱いている大学院生のイメージとは異なる印象を受けましたが、その辺りで感じていることはありますか。

大学院生は過少評価されていると、強く感じています。「学生時代は研究に没頭していて、コミュニケーションが苦手なのではないか?」という印象がまだまだあるのは確かです。でも、実際はそういったことはありません。むしろ、大学院生は研究を通してさまざまな能力を獲得している優秀な人材です。

日本の未来を担う高度人材が抱えている課題と企業の採用状況

―現在の大学院生の採用状況を教えてください。

文系の修士は厳しい一面があるものの、全体を通しては高い水準を維持しており、就職を希望する修士の大学院生の90%くらいは就職できています。ただ、博士課程になると、就職率は70%台まで落ちてしまうという厳しい現状に…。博士課程ともなれば、大学院に5年以上在籍することになりますから、修了の時点で彼らの年齢は27-28歳です。年齢的にも企業側が敬遠しがち、ということになります。
彼らは研究が好きですから、「就職せずに、このまま研究を続けたい」と考えている大学院生も多いのではないでしょうか。しかし、博士になれば就職が厳しくなってしまう。仮に就職をせずにポストドクターになったとしてもその待遇や雇用形態は不安定、次のポストや福利厚生も得られず年齢だけ上がっていく…という三重苦の状況が考えられるため、修士の段階で研究をあきらめて就職を選ぶ学生が非常に多くなっているのが現状です。
これは、日本の未来にとって大きな課題ではないでしょうか。日本企業の成長の要とも言える、「商品の開発」は、研究者によって支えられています。しかし、大学院を修了した研究者が企業で活躍できない状況がこの先も続くと、研究者を目指す人は減ってしまうでしょう。だからこそ、企業は大学院修了者が持つ専門性を活かせる環境をつくるべきだと考えています。

――大学院修了者を採用した企業は、彼らをどのように評価していますか。

弊社で行ったアンケートでは、経営者の6割が「採用して良かった」と回答しました。「直近3~4年と比較すると、成果を出すスピードが速い」「リーダーやホープになる人が多い」といった声がありました。
また、学習意欲が高いことも評価につながっています。彼らは、競合他社の先行事例や海外の事例などを徹底的に洗い出し、それらを分析した上で、提案してくれます。インプットだけでなく、アウトプットも鍛えられているので、事業改善や新規事業の提案を求めると、キレイに論点をまとめてプレゼン資料に落とし込んでくれるといった声もありました。

研究熱心な大学院生の特性を理解した採用のフローと心構え

――人事担当者が大学院修了者を採用するときに注意すべき点があれば教えてください。

大学院生は基本的に研究が好きで、研究に人生をかけていると言っても過言ではありません。だからこそ人事担当者には、彼らの研究内容に興味や理解を示していただきたい。これを大前提として、採用選考フローの中での注意点を挙げていきましょう。

■母集団形成
募集の段階で、間口を広くするために「全学部・修士問わず」と提示する企業が多いのですが、大学院修了者を採用ターゲットとする場合は、むしろ学部や専門分野を絞って集めたほうがいい結果につながります。たとえば「数学・物理・機械・電気・情報限定、大学院生募集」とすると、大学院生は「自分の専門分野」と感じて応募しやすいため、母集団形成を行いやすくなります。つまり、求める専門性や人材像は明確にするべきなのです。

■説明会
説明会に関しても、母集団形成の段階で設定した専門性や人材像の明確化に紐づけるといい結果につながります。人事担当者が会社の説明をして「はい、終了」では働くイメージが持てません。近しい境遇の先輩社員との座談会を設定したり、専門的な質問に答えられる先輩社員を説明会に呼ぶなどの対応が必要です。

■書類選考~面接
書類選考の段階では学部生の採用とさほど変わりませんが、面接に至る過程の中で、現場の社員を同席させるなどの工夫をするといいと思います。大学院生は最後の質疑応答で、この企業が自分の専門性を活かしてくれる場所なのかを確かめるために、いろいろな疑問を投げかけてくるはずです。しかし、人事担当者が「それは分かりません」と答えてしまうと、働くイメージがわかずに他社に流れてしまいます。高度な専門性を持った彼らに対して、現場で働くイメージをしっかりと提供してあげましょう。

■内定者フォロー
大学院生は研究熱心ですから、研究以外の時間を捻出するのが難しい傾向にあります。そのため、内定者インターンなどに声をかけても来てもらえないことも多々あります。また、内定が出たらすぐに就職活動を終えてしまうケースも多いので、企業は定期的にグループディスカッションを行う、社内報を配布する、キックオフや納会に呼ぶ、などのアクションを試みてください。

大学院生は学部生に比べると、就職活動にかけられる時間が多くありません。できる限り研究に時間を使いたいからです。また、複数内定をもらうためにいくつもエントリーをする学部生に比べて、大学院生のエントリー数は少ないというのもその理由の一つです。研究の合間をぬって行う就職活動ですから、企業選定に慎重なのは当然のことでしょう。

だからこそ、企業は大学生のスケジュールに寄り添った効率的な採用フローを構築し、実際に現場で働いている社員との接点を多くしてあげることが重要になります。
先述した通り、自分が働いている具体的なイメージを持たせることが大事なので、求人票には明示できるすべての情報を入れていただきたいと思います。例えば、求人情報からホームページに飛び、動画などを活用して社内風景などを見てもらう、という状況をつくるなどして、イメージを膨らませてもらうことが大切なのです。

――大学院修了者の採用で、自社に合った人材を見極めるためには、どのようなことに気をつければいいでしょうか。

大学院修了者は高い専門性を持っていますが、素養が高いこともぜひ、見ていただきたいですね。
たとえば、「エンジニア採用=情報系の学生」というイメージを持つ人が多いかもしれませんが、数学や生物、物理を専門にしている学生であっても、自動化ツールを組めることもあります。特に理系学生は情報系以外でもエンジニアとしての素養を身につけている学生が多くいます。プログラミングは論理的なコード進行なので、理系学生の論理的思考に合致しますし、そもそも授業や研究でプログラミングを行うケースも多いので、あまり抵抗を感じないはずです。
また、人柄やスキルを判断するのであれば、インターンを活用するといいでしょう。1day、2dayインターンなどで、社員と同じようなタスクを振り、自社とのフィット感をジャッジするという手法がおすすめです。

研究者を絶やさないための環境と高度人材を採用による国力向上

――大学院修了者とジョブ型雇用の相性がいい理由を教えてください。

培ってきた専門性を活かせることです。大学院生にとっては、研究に費やした時間がスキルや経験になります。そして、その研究に近い仕事をしてもらうことが、企業内での早期の活躍につながります。彼らも研究で培ったスキルを活かせる会社で働きたいはずなので、そういった観点で採用すれば定着にもつながるのではないでしょうか。

――大学院修了者をはじめとする「高度人材」の採用の価値について、どのように考えていますか。

学部卒で就職することを“よし”としてしまうと、日本の研究機関や研究活動が廃れてしまう危険性が高まります。この先の日本を考えたときに、「大学院に行って研究をしたい」と思う学生が減ってしまうことはリスクではないでしょうか。だからこそ、彼らのような専門性を持った人物が存分に活躍できる場が必要なのです。大学院修了者が企業で活躍することが、未来の子ども達にいい影響を与えると考えています。
大学院では、大なり小なり税金をかけて大学院生を育てます。国民の税金を使って育てた大学院生を、年齢などを理由に忌避するというのは大きな損失なのではないでしょうか。知恵や頭脳を活かすことにフォーカスした採用は、日本の国力向上につながっていくはずです。
前編でも言いましたが、ジョブ型雇用をすでに行っているアメリカの企業は、博士課程の高度人材を年収2千万円以上で雇いますし、実績を積めばそれ以上の金額でヘッドハンティングされることもあります。日本企業もジョブ型雇用への移行をしていくのであれば、大学院生の優位性に注目して、彼らが活躍できる環境を整備してほしいと思います。

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この記事の著者

山田 諒
株式会社アカリク
代表取締役

1988年8月生まれ。神奈川県相模原市出身。社員研修や人材育成、転職・就職支援等、HR経歴10年以上。前職ではITエンジニアに特化した人材紹介事業を立ち上げ、100名規模に成長。自身は事業部長として新卒・転職エージェントとヘッドハンティング領域を管轄。2021年4月より大学院生・ポスドク専門の就職支援を行う株式会社アカリク代表取締役に就任。現在も自ら商談に出向き学生・大学・企業の課題解決に取り組む。