若き採用担当の悩み⑤面接の設計と実施について【採用賢者に聞く 第5回】

評価項目や評価基準が決まったら、いよいよ面接をどのように実施するのか、というフェーズに入ります。今回は、当連載「若き人事担当の悩み①②」でもご登場いただいた、株式会社アタックス・セールス・アソシエイツの採用コンサルタント・酒井利昌氏に、採用賢者の知恵を伺うべくインタビュー。面接の種類から、事前に必要な準備、面接官のマインドセットまで、面接の実施に当たって必要な情報をご説明いただきました。
さまざまな種類の面接をどう使い分けるべきか

――面接にはさまざまなスタイルがあります。それぞれの目的や実施タイミングなどについて教えてください。
面接のスタイルには大きく分けて「集団面接・個別面接・カジュアル面談」の3種類があります。それぞれについて解説します。
集団面接
・目的 採用業務の効率化 ・実施タイミング 選考プロセスの序盤 |
多くの学生から自社の希望に合った人材を絞り込むのに適しています。基本的な質問(自己紹介・自己PR・学生時代に力を入れたこと)をして、企業と学生がお互いのマッチング度合いを見極める場です。なお、集団面接は複数の学生を集めて行うため、面接に関係ないような、個人情報を漏えいする内容の質問を避けるなど、学生のプライバシーへの配慮が必要と留意しておきましょう。
個別面接
・目的 学生に対する理解の掘り下げ 学生の個別ニーズにマッチする入社メリットの説明 ・実施タイミング 初期選考および最終面接 |
面接と言えば個別面接がスタンダードです。選考の序盤で学生が集まりすぎてしまう場合を除き、最初から個別面接を実施する企業も少なくありません。ただし、大量の学生全員に実施するとなると、膨大な時間と労力がかかります。学生側も個別面接は準備が増えるにもかかわらず、選考の序盤は通過しない可能性も高いので、お互いに非効率というデメリットがあります。
カジュアル面談
・目的 相互理解の促進による効率的な情報交換 情報提供不足による選考辞退や内定辞退の防止 入社後のミスマッチによる早期退職の軽減 ・実施タイミング 選考プロセスに入る前 |
カジュアル面談は、「情報交換の場」であり、学生を選考する場ではありません。もともと「面談=情報交換の場」なのですが、選考と区別していることがより学生に伝わりやすいように「カジュアル面談」と呼ばれるようになりました。新卒採用の場合、近年は企業からオファーする形態が増えています。ただ、学生としてはエントリーを考えていなかったところからオファーを受けているので、「面接に来てほしい」と言われても当然、抵抗があるでしょう。こういう時に、選考とは関係のないカジュアル面談が有用になります。
本気で向かってくる学生に本気の準備を

――面接前の準備しておきたいことについて、それぞれ注意点やポイントも含めて教えてください。
面接回数の設定
面接は、次の2つの目的で行うものです。
(1)選ぶ(見極める)…学生が自社に合う人材かどうかを見極める (2)選ばれる(動機づける)…学生に自社への入社を動機づける |
この両方の目的を果たすために、面接の回数も含めて選考スケジュールを設計しましょう。「2021年卒マイナビ企業新卒内定状況調査」 によると、一次選考から内々定までの平均選考回数は、2.4回となっています。
私の個人的な見解としても、面接は2~3回が妥当だと考えます。1回の面接だけでは、面接官個人のバイアスが大きくなるため、見極めの精度はあまり高くないでしょう。そのため、1回目は現場の社員による面接、2回目は役員による最終面接という形が一般的とされています。(母集団が大きい場合は、個別面接の前に集団面接も入るため全部で3回実施されます)このように、複数回の面接を経て、さまざまな面接官が評価した結果、内定が出たのであれば、学生の納得感も得やすくなるのではないでしょうか。
また「ザイアンス効果(=単純接触効果)」という心理的な効果もあります。これは、人や物、サービスに何度も触れることで警戒心が薄れていき、関心や好意を持ちやすくなるという効果です。「面接」の場で会えば、「公式な場所で自分に会ってくれている」という納得度が高まり、より効果的と考えられます。
面接官の選出
学生にとって面接官は、選考中に接触できる数少ない社員です。そして、企業イメージと直結する、最も記憶に残る存在とも言えるでしょう。面接官のパーソナリティから学生に対してどのようなメッセージを発信したいかが重要になるため、慎重に選出しましょう。
理想は、「見極め役」「動機づけ役」の2名をアサインすることです。特に難しいのは、「動機づけ役」です。心の底から「うちは良い会社だ」と思っている社員でないと、嘘で取り繕った部分が学生に伝わるおそれがあるので、「動機づけ役」を選出するならば、会社を背負うようなポジションの人、中小企業なら社長が適任と考えます。
各選考での質問事項の設定
事前に定めておいた採用人物像(ペルソナ)の要素がその学生にあるかどうか、どのような質問をすればそれを確認できるか、質問項目を洗い出して設定することが必要です。(ペルソナの解説はこちら)
面接に対する考え方や方法の周知
複数の面接官が同時並行で面接する場合には、求める人物像、評価項目、評価基準、学生への接し方など、面接に臨むために必要な情報を共有しておきましょう。ここでのよくある失敗例は、何も決めずに現場の担当者に全てを任せてしまうことです。すると、「話を聞くだけでいいんだ」と思われてしまい、学生を正しく評価することができなくなります。また、面接で重要なのは、先述したように「見極め」「動機づける」ことです。それには、面接官にある程度のスキルが必要になるので、採用関連のビジネス書を最低でも2~3冊は読んでもらうべきでしょう。一般社団法人日本採用力検定協会が主宰する「採用力検定」 のオンライン受検は公式テキストがスキル修得に役立つのでおすすめです。
準備が多くて大変かと思われがちですが、学生も準備して臨んでいます。就職活動を通じて、「努力だけでは報われないことがある」と、初めて挫折を味わう学生も多いでしょう。このように、必死で乗り越えようとしている彼らに対して、私たち採用担当者は本気で向き合わなくてはならないのです。
――Web面接の広がりによって必要・不要になった準備があれば教えてください。
Web面接の導入によって必要になったもの
環境整備(PC、マイク、照明、会議室、安定した回線速度のインターネット環境) これまでWeb会議を日常的に行っていなかった企業は、Web面接となると、「マイクが入っていない」「ハウリングする」「資料共有がうまくできない」など、技術的な面で戸惑うこともあります。現場で慌てないためにも、事前のリハーサルは必ず行っておきましょう。 ミーティングURLの案内 Web面接では必須の案内です。URLを送る際、基本的な使用方法や面接の流れも相手に伝えてあげると親切でしょう。 緊急連絡先の共有 技術的な不具合や、不測の事態により、予定通りWeb面接が実施できないこともあります。お互いのリスク回避のために、緊急連絡先は必ず共有しておきましょう。 コミュニケーションスキル オンライン特有のコミュニケーションスキルとして、「オーバーリアクション」があります。画面越しでは、話を理解しているかどうかが相手に伝わりにくくなります。学生に「反応が薄い」と不安を与えないように、多少オーバー気味なリアクションを心がけて、面接官同士で事前に練習することをおすすめします。 |
不要になったもの
会場や会議室の手配 物理的なスペースが必要なくなったことは、オンラインならではのメリットです。 出張 移動による拘束がないぶん、スケジュールが調整しやすく、効率的に面接を実施できるようになりました。 面接官以外への情報共有の負担 Web面接の場合、面接が始まる前に録画する旨を説明し許可を取ることで、面接の様子を録画することができます。これによって、面接官同士や経営陣との情報共有がスムーズになりました。また、面接官のスキルアップのための振り返りにも活用できるというメリットもあります。ただし、録画データが流出してしまわないよう、管理はきちんと行いましょう。 |
話しやすさに配慮しつつ深堀りの「なぜ?」を忘れずに

――学生との面接にあたり、心がけておくことを教えてください。
面接で心がけておくこととしては、「雰囲気づくり・事実や行動を聞く」という2点をまずは押さえておければよいかと思います。それぞれについて解説します。
話しやすい雰囲気づくり
雰囲気づくりの代表的なものとしては以下の2つがあります。
アイスブレイクを入れる 学生は、選考に合格するために、どうしても自分をよく見せようと取り繕います。それをなくし、ありのままを出せるようにするのがアイスブレイクの目的です。しかし、面接官自身もありのままの姿を見せなくてはなりません。たとえば、「忙しくて、まだお昼を食べていないんだよね」など、パーソナルな話題が効果的かもしれません。また、面接が二次、三次と進んでいる場合、前の面接で学生の情報がある程度わかっているはずなので、その情報をもとに話題を振る方法もあります。 質問は、まず学生が答えやすいものから 学生は、自己紹介、自己PRなど、「これは聞かれるだろう」というようなことを準備してきます。まずは、そのあたりから質問をしてあげましょう。そうすれば学生の堅さもとれて、本来の姿が徐々に見えてきます。しょっぱなから変化球のような質問を投げられて、本領発揮できないのは、学生にとっても、採用する企業にとってももったいないことだと思うので、控えるようにしてください。 |
事実や行動を聞く
「意見」を聞くのではなく、「事実」や「行動」を聞くことがとても重要です。
【具体的な質問例】 Q.その結果を得るために、どんな行動をしたのですか? Q.そのとき、その行動をしたのはなぜですか? Q.その結果を得た今、どんな気づきがあって、これからに活かせると考えていますか? |
なぜなら、「意見」はある程度、用意できるからです。本人の今の姿を知るために、それを形作った「事実」や「行動」を聞くのは王道の方法なのです。ここでのポイントは、実績などの結果だけでなく、そこに至るまでのプロセスを聞くこと。たとえば、大会での優勝実績も、実は「チームでの優勝」であり、本人の成果だけではないケースが往々にしてあります。「チームのなかで自分がどのように貢献したのか」、「優勝へと導いた一手は、自分で決めた行動だったのか」など、個人に焦点を当てて質問してみましょう。
――学生との面接で意識していることや必ず質問することはありますか。
「なぜ、その行動をしたか?」です。新卒採用の場合、中途採用と違って職歴がないため、そのぶん評価の判断材料は少なくなります。また、一般的な質問、たとえば「学生時代に力を入れたこと」などは、多くの学生が「サークル」「アルバイト」「ボランティア」など、似通った回答になってしまい、違いが見えにくくなります。そのため、過去の体験や行動を深く掘り下げなくてはなりません。その際に、「なぜ?」と行動の理由を問い続けるのは、有効な方法だと思います。
つい聞いてしまいがちな質問に潜む“リスク”

――面接で面接官がやってはいけないことや行動はありますか。
採用面接は、本人の「適性」「能力」のみを基準に選考しなくてはいけません。そのため、面接で聞いてはいけない質問があります。
本籍地・出生地に関する質問 家族・住宅状況に関する質問 思想・信条に関わる質問 |
これらは学生自身ではどうすることもできない事柄です。これをもとに合否を決めることは、就職差別につながります。また、労働者の均等待遇を定めた職業安定法の第三条「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない」に、抵触する恐れもあります。厚生労働省のHPに「公正な採用選考の基本」という解説があるので、目を通しておきましょう。
特に、「どこの出身なの?」「ご家族はどんな仕事をしているの?」などは、面接のアイスブレイクでつい気軽に聞いてしまいがちな質問と言えるでしょう。このような話題や質問は、法に抵触するおそれや、学生にマイナスイメージを与えるリスクが高いので、必ず避けてください。また、やってしまいがちですが、「尊敬する人は誰ですか?」「好きな本はなんですか?」もグレーゾーンです。あくまでも面接で質問できるのは、すべて「採用の判断」に結びつくことだけである、という意識で臨んでください。
――面接であえて質問しないようにしていることはありますか。
選考の初期の段階で、志望動機を聞くことです。この段階の学生の多くは、まだ他にもたくさんの企業を検討していて、自社だけを見ているわけではありません。そのため、このタイミングで志望動機を聞いても、取ってつけたような回答になる可能性が高いので、それをもとに選考するのは意味がありません。
個人的な見解ではありますが、志望動機というのは、「面接によって動機づけて、一緒につくりあげていくもの」だと考えます。学生の真の考え方を知るためにも、志望動機を確認するのであれば、最終面接でのタイミングがいいと思います。
面接官は聞き役であり「動機づけ」が一番の役割

――面接を成功させるために担当者が最低限持っておきたいスキルやマインドはありますか。
面接する側は、無意識のうちに「学生をジャッジしてあげよう」という上から目線になりがちですが、それを自覚し、意識的に避けることが大切です。覚えておいてほしいのは、面接を英訳するとinterview(インタビュー)。つまり、面接官はinterviewer(インタビュアー)であり、学生の話に耳を傾けきちんと話してもらうことが求められるのです。そのためには、自分がどれだけ熟知している内容であっても、「知らなかったなあ!」とその道の素人であるかのように話を聞く姿勢を求められるケースもあります。また、そういった姿勢のほうが、学生は「面接官が認めてくれた」と感じやすく、志望度を高める効果も期待できるかもしれません。
ほかにも、人には心理的なバイアスが無意識で働きます。バイアスによって偏った主観でその人を判断してしまう可能性があるため、「人を短時間で見抜けるわけがない」という割り切りも最低限持っておかなくてはならないマインドと言えるでしょう。
【心理的バイアスの例】 ・類似性効果 「自分と似ている人に好奇心を抱く」という心理的バイアス(先入観) ・確証バイアス 自分が持っている仮説や信念を支持する情報ばかりを集めて、反証する情報を無視、または集めようとしない傾向 |
いずれも、人間が無意識的に持つバイアスなので、とても強力です。そのため、SPI(リクルートマネジメントソリューションズが提供している、能力や人柄を把握する目的で企業が実施する「適性検査」と呼ばれるテスト)などの客観的な適性検査を用いて、精度を上げるべきというのが私の考えです。
その上で、面接官は、面接の場ではジャッジするのではなく、「見極め」と「動機づけ」のための情報収集に徹してください。そのウエイトは、「見極め」よりも「動機づけ」が重く、機械的なテストなどではできません。心を持った人間にしかできないということ忘れないでほしいと思います。