sonar HRテクノロジーが発信する、
採用と人事の情報メディア

専門家コラム

- Column -
専門家コラム

若き採用担当の悩み③採用の評価項目設計と評価基準【第3回 採用賢者に聞く】

学生が本来持っている資質や可能性、つまり「ポテンシャル」で採用しなければならない新卒採用。その面接で何を評価すればいいのか、そのための評価項目や評価基準をどう設計すればいいのか、若き人事担当者にとってはハードルの高い問題と言えるでしょう。そこで、今回は、人事歴約20年、面接した人数2万人以上という採用賢者、株式会社人材研究所の代表取締役 曽和利光氏に登場いただき、評価項目の必要性から作成するときの注意点まで、詳しくお話を伺いました。

人を評価するときには、バイアスがかかる

――新卒採用を行う上で、評価項目や評価基準がなぜ必要なのか教えてください。

極端な話、採用選考では「合格させるか、落とすか」を面接官が決められたらいいわけです。企業によっては評価項目を設定せず、「よかった」「悪かった」という主観的判断で終わってしまうケースもあります。しかし、人が人を評価するときには、偏見や好き嫌いといった心理的バイアスが、少なからずかかるものです。

バイアスについて少しお話しましょう。バイアスの一つに「類似性効果」というものがあります。これは、自分と似ている人を高く評価してしまう現象のことです。裏を返せば、似ていない人の評価は低くなる傾向にあるということ。この類似性効果以外にも、「ハロー効果」というバイアスも有名です。これは、その人のよいところが一つ見つかると、つられて他の特徴すべてがよく見えてしまうという現象のことです。

このほか、自分の専門領域の人には厳しくなってしまうバイアスもあります。たとえば、面接官と学生が歴史好きだった場合、「どれくらい歴史が好きなのか、試してみよう」と、あえて難しい質問をしたり、同じ体育会系とわかった途端に厳しく接したり、というようなことが起こるケースです。こちらも裏を返せば、自分の知らない領域では「すごい!」と無条件で高い評価をしてしまう可能性を含んでいます。

ここで出てきたいくつかの心理的バイアスは、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)と言われます。評価項目や評価基準というのは、面接官がこれに引っ張られないようにするための一つの線引きなのです。

――評価項目や基準が曖昧なままで採用すると、どのようなトラブルが発生するか教えてください。

アンコンシャス・バイアスによって、企業が本当に求めている人材を採用できない可能性があります。近年、企業が重視するようになった評価項目の中の「コミュニケーション能力」を取り上げてみましょう。一口に「コミュニケーション能力」といっても、「空気が読めること(感受性)」「筋道を立てて話しができること(論理性)」「独自の表現や言葉で伝えること(クリエイティビティ)」など多義的で、人によって受け取り方はさまざまです。また、どの程度のレベルをよしとするのか明確な基準がないと、評価も変わってくるでしょう。これは「評価項目が決まっていても、その基準は曖昧」という理由で起こる問題です。

人が関与して言語で定義している以上、評価項目や評価基準はどこまでいっても曖昧なものだと私は思います。たとえ、これらをつくったとしてもそのなかでアンコンシャス・バイアスが発生してしまうはずです。ですが、評価項目と評価基準をつくることで、面接官同士が、「この評価項目は、何を表しているのか」「この評価基準は、何を標準と考えればよいのか」というお互いの認識をすり合わせるときの基点になります。それこそが、評価項目や評価基準のもっとも重要な意義だと私は考えています。

採用の評価項目と評価基準は、主観と客観でつくる

――評価項目・評価基準の作り方にフレームはあるのでしょうか?

「評価項目」をつくる方法としては、二つあります。

フレーム1:求める人材要件から演繹的につくる 社内にいない人材を採用する際に使う手段です。
フレーム2:帰納的に評価項目をつくる 活躍している社員から情報を収集します。

一般的には、フレーム2の帰納的な方法でつくる場合が多いとされています。そして、帰納的な方法はさらに2つに分かれます。

帰納的な方法の2つのパターン

(1)活躍している社員や、経営者から意見を聞く
現場や経営陣の主観的な意見を参考にする方法です。「活躍のために必要な資質は何か」と彼らにヒアリングし、それを参考に評価項目や評価基準を作成します。多くの企業がこのパターンを採用しています。

(2)活躍している社員から客観的なデータをとる
モデルとなる社員の仕事ぶりを行動観察し、客観的にデータをとる手法です。その社員への適性検査も、客観的なデータとして有効と言えるでしょう

ここで注意したいのは、(1)(2)が必ずしもイコールにならないことです。
たとえば、営業職の場合、(1)のパターンでは「根性」「執念」「継続力」といった答えが返ってくることがよくあります。しかし、(2)のパターンを使い、社員に同行して行動観察すると、実は「事前準備が入念」「お客様の話に対して十分な傾聴ができている」「ミーティング終了の2時間後には、お客様に対して提案書を送っている」など、本人も気付いていないトップセールスたる要因が見えてくることがあります。

また、活躍している本人の主観的な意見では「素直な人がいい」と言っているのに、当の本人を適性検査にかけて、客観的に資質を見てみると「従順性が低い」という矛盾した結果が出ることもあります。主観的な意見は、バイアスにまみれているからです。

しかし、(2)の客観的なデータだけで評価項目をつくるのは不十分です。行動観察では、四六時中社員についてまわるわけにはいきません。つまり、取れるデータはわずか一部しかなく、本当に求める人材に必要な要素を取りこぼしている可能性があります。たとえば、何年もかかるビル建設プロジェクトの適任者を採用したいとしましょう。もし、完璧な客観的データだけで評価項目をつくるとなれば、同じような建設プロジェクトに携わる社員の行動を何年も追うことになります。これは現実的なやり方ではありません。

また、適性検査は能力や性格特性を調べるもので、そのフレームワークの中でしか判断できません。たとえば、ペットショップの店員に必要な資質は、もしかしたら「動物がものすごく好き」という、適性検査では測れない“思い”かもしれません。これは、(1)の主観的な意見でなければわからないことです。主観と客観、両方の視点を補完し合って評価項目や評価基準をつくることが大切です。

求める人材像は、ペルソナ化して考える

――評価項目・評価基準をつくるために、まず求める人物像の設定が必要です。その際の注意点を教えてください。

厳選した採用基準

求める人物像は、人事施策全体でつくります。採用時は不足していた資質や能力を、育成で理想に近づけていく方法もあるからです。新卒採用において、最初から求める人物像に完全合致した人物は、そうはいません。ですから、求める人物像の要件は、採用基準と育成目標に分解して考えたほうが現実的なのです。

また、採用基準を多く設定してはいけません。全ての基準を満たせる学生が少ないはずなので、単純に、採用数は減ることになります。また、この部分だけはずば抜けているといった尖った人材の採用にも至らなくなるでしょう。その結果、採用した人材のレベルは均一かつ低下してしまう可能性が高くなると言えます。

以上のことから、求める人物像に関しては、採用基準を厳選し、育成目標に回せるものはできるだけ回したほうがよいと考えます。

具体的なペルソナ設計

求める人物像から抽出した採用基準を満たすのはどんな学生なのかを考えます。

・サークル活動しているなら、伝統的な強豪なのか?同好会的なものなのか?
・アルバイトしているなら、どこで働いているのか?
・インターンシップは、たくさん参加するタイプか?

など、パーソナリティが浮かび上がるような問いを重ねて、具体的なペルソナ(典型的な人物像)をイメージします。そして、このペルソナ設計が完了すれば、採用ホームページやスカウトメールの作成時にターゲットを意識することができ、「どんなキーワードやメッセージなら効果的にリーチできるか」などを考えやすくなります。

ペルソナをきちんと設計すると、「用意した採用基準をすべて満たす人はいないのでは?」と気づける場合もあります。たとえば、以下のような相反しそうな採用基準が含まれてしまうケースです。

・フットワークが軽い
・何事にも慎重
・一つのことに黙々と取り組みたい
・好奇心が旺盛

採用基準は、抽象的な概念からつくられるため、往々にして現実的でない人物像が生まれがちです。しかし、現実的ではない状態のままにはしておくことはできません。ペルソナをきちんと設計することで、これらの矛盾に気づくことができたら、完成したペルソナを一人の学生に当てはめてしまうのではなく、2人分と考えることもできるかもしれません。そして、それぞれ別の採用プロモーションをかけてみてはどうか、という判断も可能になるのです。

――求める人材像を、評価項目・評価基準に落とし込む際の注意点を教えてください。

評価項目をもとに、ペルソナのタイプ分けをすることは、比較的簡単です。しかし、評価基準を設けるのは、非常に難しいでしょう。たとえば「積極性」という評価項目に5段階の評価基準を設けたとしても、面接官によって真ん中の評価ばかりつける人、極端な評価ばかりの人など、さまざまです。なぜならば、やはりここでもバイアスがかかるからです。

ここで注意してほしいのは、評価基準や評価要素に点数をつけ、その合計点で合否を決めてしまうケースです。各点数はそれぞれの面接官によってバイアスがかかるため、単純に合計点を比較できるというわけではありません。また、そのとき面接した学生全体のレベルによっても対比効果で点数は変動します。総合点が高かった学生が、入社してみると「意外とそうでもない…」というズレが生じるのは、面接した時期によっては学生全体のレベルが低いケースがあるからです。つまり、妥当性のある点数を出すためは、面接官が注意深く人を見ることができて、世の中の人物データベースが頭の中に詰め込まれているぐらいのレベルでないと厳しいと言えるでしょう。

このことからも評価項目の要素ごとにつけた評価と、総合評価はダイレクトにつなげないほうがよいと考えます。あくまでも、総合評価を決める際の「思考のサポート」として活用すべきです。

●要素ごとにつけた評価の活用方法

・ケース1 「とても良い人材だ」と思ったが、それぞれの評価項目につけた点数を振り返ると、意外に低い場合 ↓ 自社の求める人材ではないのかもしれない、と冷静に検討できるようになる  

・ケース2 各評価項目の点数は低いが、ある特定の評価項目がずば抜けている場合 ↓ 評価項目に設定した「論理的思考」が、5点満点のところを20点つけたいぐらい優れているので、選考の土台に上げる

など、多面的に人材を捉えるヒントとして利用してみてください。

関連記事:新卒・中途採用基準の作り方!明確な基準設定は採用活動において重要

評価シートの肝は、自由に記載できる「空欄」

――面接時のツールとして、一般的に評価シートが使われますが、こちらを作成する際のポイントを教えてください。

評価シートは、評価項目や評価基準の欄に、評価の決め手となった「ファクト」と「印象」を自由に記載できるスペースを大きめに用意しておきましょう。その評価が、どのような「ファクト」と「印象」によるものなのか、面接官同士で共通認識を持てるようになります。もし、「印象」についてしか記載されていなかったら、バイアスによって正当な評価にならない可能性がでてきます。そのような場合は、次の面接官に引き継いで、「ファクト」を深く堀り下げてもらおう、と面接方針を決めることにも役立てられます。客観である「ファクト」と、主観である「印象」の両方の視点で見ることで、より評価を深められるのです。

このほか、評価項目や評価基準とは別に、自由に記載できる「その他」欄を設けることも重要です。たとえば、採用面接時に「評価項目にはひっかからなかったが、あまりにもすごい人材だったので次の選考に進んでもらいたい」と感じた場合、その「ファクト」や「印象」をここに記載することができます。これによって、想定外の異能人材の採用にも対応できます。

――このほか、評価にあたっての注意点はありますか?

新卒採用の場合、面接する学生が1日5人ということもあります。数をこなさなければならないので、その日のうちに次々と評価を確定し、合否を決めなければならない企業もあるでしょう。しかし、それはおすすめしません。新卒採用には、実務経験や実績というわかりやすい「ファクト」がありません。その上で、潜在能力を見抜くのは非常に難しいことです。だからこそ、全ての面接を終えてから、振り返ることが大切なのです。もちろん、振り返ることで評価を書き換えてもかまいません。総合評価を相対化し、客観的に判断することで、よりよい採用を目指せるはずです。

何度も視点を変え、客観と主観をいったり来たりしながら評価を見直すのは、一見、非効率のように思えるかもしれません。しかし、多様な人材を一面だけで捉えようとすることこそ、無理があるのではないでしょうか。だからこそ、時間をかけて視点を変えながら一人ひとりとじっくり丁寧に向き合うことを忘れないでください。

後編:若き採用担当の悩み④新卒採用における母集団形成【第4回 採用賢者に聞く】

この記事をシェアする

この記事の著者

曽和 利光

株式会社人材研究所
代表取締役
https://jinzai-kenkyusho.co.jp/

リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験、また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や情報経営イノベーション専門職大学客員教授も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。