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人事評価制度の作り方③評価項目・評価基準はどう決める?【第3回 人事のプロに聞く】

人被評価者のどんな点について評価しているのかを示す「評価項目」、それらを評価するための基準となる「評価基準」。この2つはまさに、人事評価の核と言えます。これらをどのように作成し、運用していけばよいのか、悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、人事コンサルタントで「人事の学校」の主宰としても活躍しているフォー・ノーツ株式会社代表取締役社長の西尾太氏に評価項目と評価基準の決め方についてインタビュー。人事部長やコンサルタントとしての現場経験をもとに、血の通った熱いアドバイスをいただくことができました。

当たり前のようで、できていない、基準の明確化

――「良い評価制度」とはどのようなものだとお考えですか。

大前提として、評価は「育成のため」に行うものです。そのため、企業は社員に求めることを明示しておかなければなりません。つまり、良い評価制度とは評価の基準が明確に示されていることと考えます。昨今の人事評価は「行動」と「成果」で評価することが主流です。たとえば、「行動」の評価に等級制度の枠組みを使うのであれば、新人・一人前・主任クラス・部長クラス・役員クラスなど、それぞれのキャリアステップごとに求められる行動が明らかでなくてはなりません。

一方で、「成果」の評価は、あらかじめ目標が明確になっていることが大事です。「今期は頑張っているからちょっと評価を上げてやろう」などと不意に評価基準を変えることは、不平・不満を生み、結果として制度を形骸化することになります。そうさせないためにも、明確な目標に対して、実際にどのくらい達成できているかを客観的に判断したほうがよいと考えます。

評価のために明確な基準をつくるのは、一見当たり前のことだと思うでしょう。しかし、各等級に求められるミッションの違いを曖昧なままにしている企業は少なくはありません。その当たり前のことが、実際できていないケースも多いのです。なかには「長年自社に勤めてくれているし、結婚して子どもも生まれた。そろそろ等級を上げて、昇給させてあげよう」など、役員の胸三寸で評価が決まるケースもよく見られます。この背景にある制度こそ、日本の企業が長年続けてきた「年功序列」です。これは年齢や勤続年数に応じて、役職や賃金が上昇していく制度ですから、成果や行動について評価する必要がなく、明確な評価項目や評価基準がなくても支障はありませんでした。そのような制度を今も引きずっている企業が多い、というのが現状なのかもしれません。

「成果」は目標、「行動」は4要素で構成される

――評価項目の必要要素にはどのようなものがあるのか教えてください。         

1990年代後半、バブル経済崩壊とともに、企業は貢献度の高い人材に報酬を最適配分したいという考えのもと、年功序列から一気に成果主義の導入を進めました。しかし、近年、「行動」の評価を重視している企業が増えています。その理由は、優秀な人材がいたとしても、その能力を数字で測るのが難しいからです。たとえば、ある人が「私はジャズピアノが弾ける」と発言したとします。しかし、その人がどの程度の曲をどのくらい弾けるのかはわかりませんし、そもそも「弾ける」という本人の言葉だけで判断するのは、ナンセンスです。それならば、「実際に弾く(=行動)」を見れば、レベルは明白ではないでしょうか。このような観点から、成果につながる再現性のある行動を見ていこう、という流れになったのです。

また、「行動」を重視するもう一つの理由は、「成果」は本人の能力以外の要素も入り込む可能性があるからです。たとえば、ジャズピアノを弾ける人がバンドを組み、ライブで観客を大いに沸かせたという「成果」を生んだとしましょう。しかし、それはバンドのベースやドラムの演奏者の力が大きかったからかもしれません。あるいは、そのライブハウスの音響が素晴らしかったという可能性もあるでしょう。要するに「成果」には本人の能力以外に、“環境”や“運”の要素も含まれている、ということです。では、これらを踏まえた上で、評価項目である「成果」と「行動」の必要要素を考えていきましょう。

●「成果」の必要要素

こちらは明確な「目標」に尽きます。要素としては、非常にわかりやすいと思います。

●「行動」の必要要素

ビジネスで成果を出すハイパフォーマーの行動特性を、コンピテンシーと呼びます。コンピテンシーモデル自体は世の中にたくさんありますが、当社は多くの企業が普遍的かつ汎用的に使えるコンピテンシーモデル「B-CAV45」を開発しました。それに基づいて「行動」の必要要素をわかりやすく大きく分類すると、以下の4つの要素になります 。

1.タスクマネジメント

これはPDCAをきちんと回せているか評価するための要素です。等級で基準を分ける場合は、下記のような評価項目があります。

・現場の若手…個人で成果を上げる行動
・管理職…組織の成果につながる行動

2.ヒューマンマネジメント

これは対人関係能力を発揮した行動について評価するための要素です。たとえば、下記のような評価項目があります。

・若手社員…協調性のある行動、主体性のある行動
・管理職…育成や指導

3.リーダーシップ

これは、部下を持つようになると求められる要素です。たとえば、下記のような評価項目があります。

・リーダーや現場のマネージャークラス…チームをどのように指揮していくか
・部長クラス…部のビジョン策定や事業戦略の立案と遂行など

4.リスクマネジメント

これは、組織内のリスクを回避・低減させる行動について評価するための要素です。たとえば、下記のような評価項目があります。

・若手社員…自身の健康管理、ミスの低減など
・管理職…組織全体でのリスク予見と対応、手順策定及びクレームやトラブル対応など

組織の中での役割をベースに考える「評価項目」

――評価項目はどのように決めていくのが良いのでしょうか?         

一般的には社員それぞれのキャリアステップで求められている成果や行動を、評価項目として落とし込んでいきます。各階層に何が求められているのかは、経営陣と人事部門によって話し合って決めていくことになるでしょう。

前述したように、それを決めていくための一般的なコンピテンシーモデルがあるので、それを参考にしながら、自社の求める人材像とすり合わせて、評価項目を決めていくのも、一つの方法だと思います。

評価項目は、行動モデルが明示できるメッシュの細かさで

――評価項目を決める際に注意したいことがあれば教えてください。 

評価項目を大枠で落とし込むのではなく、できるだけ明確に評価できるように細かな粒度で落とし込んでいくことが重要です。どのくらいの細かさにすればよいかというと、「これはできている」「これはできていない」と、評価者と被評価者で十分に会話できるレベルをイメージしてください。たとえば、「行動」に関する評価項目が、「リーダーシップを発揮している」では、ざっくりしすぎています。そのため、「組織のビジョンを策定し示している」「ビジョンに向けた戦略を策定し、具体的な計画に落とし込んでいる」など、「リーダーシップ」自体が何を意味しているのかを明確にして、さらには具体的な行動モデルが明示されているといいでしょう。

人事評価の大きな目標は「育成」です。評価によって、至らない点に“気づき”を与えなくてはなりません。そのため、どのような行動で評価が低くなり、どうすればよかったのか、それが具体的にわかるようなメッシュの細かさが評価項目には求められるのです。

なお、「成果」に関しては、部署・個人ごとに異なる「目標」の達成度によって評価します。それに対して、「行動」に関する評価項目を職種別まで落とし込んでしまうと、逆にメッシュが細かくなりすぎて汎用性が失われます。企業の規模や職種の数にもよりますが、自社にとって適正なメッシュの大きさを考えましょう。

評価基準には、具体的な行動を示す“キーワード”を

――評価基準を決める際のポイントについて教えてください

「チームの目標達成のために計画を立てている」「計画の進捗管理を行っている」「最後まであきらめずに目標達成している」という評価項目は、タスクマネジメント上重要ですが、これらに「計画立案」「進捗管理」「目標達成」というキーワードを付加します。これにより、評価の際に「計画立案が甘い」「進捗を管理できていない」などを明確にすることもできます。

しかし、キーワードを入れただけでは足りません。経営陣、人事担当者、評価者、被評価者が全員で共通認識として持つことも重要なのです。一例として、“判断”と“決断”というキーワードを挙げてみましょう。どちらも似たような意味合いですが、評価項目を設定した人事部の意図としては、“判断”は「いくつかの選択肢から選ぶこと」、“決断”は「他の選択肢を捨て、不可逆的に選択すること」というように、責任の重さが異なっている可能性があります。このように評価基準のキーワードに共通認識ができていると、社内のコミュニケーションが格段にスムーズになり、効果的な人材育成が目指せるようになるでしょう。

評価者に必要なのは、「育てよう」という“愛”

――評価項目・評価基準を明確にすれば、あとは完璧でしょうか。

いいえ。評価項目や評価基準が曖昧になる要素は、まだあります。それは評価者です。評価者が「被評価者を見る力がないから」「育成に関心がないから」「そもそも忙しくて評価なんかやっていられない」など、さまざまな理由で、適正に評価できないことがあります。よくあるのは、「可もなく、不可もなく」という中間の評価をつけることです。これでは、被評価者は自身が成長しているのかも、これからの課題がなんなのかもわかりません。そのような評価には、“愛”が足りないと思います。

また、もともとの評価項目や評価基準に設けられていないことを、後出しジャンケンのように持ち出す評価者もNGです。私も昔の会社で、役員クラスにS評価をもらったのですが、最終的に社長から「評価項目にはないが、お前は言葉遣いが悪いからA評価」と言われて、大喧嘩したことがあります(苦笑)。確かに当時、自分自身、上品な言葉遣いだとは思っていませんでしたが、その社長とは2日に一度は顔を合わせていたので、「だったら、その都度言ってくださいよ」と思いましたね。繰り返しになりますが、人事評価の目的は育成ですから、評価者は日頃のコミュニケーションを活用して、被評価者に気づきを促さなくてはなりません。評価するときだけ、突然新たな評価項目や評価基準を加えるのは、やってはいけないことなのです。

――このほか、評価項目や評価基準をつくる際に、気をつけたいことはありますか?

たとえば、5段階評価を設定したとき、「期待以上」「大幅達成」「達成」「未達成」「指導」という区分になったとしましょう。そのとき、中間の「達成」という評価を、「C」や「3」という評価にするケースがありますが、個人的にそれは“センスがない”と思います。学生の頃の気持ちを思い出してください。通信簿で「C」や「3」が並んでいたら、「達成」できているのに、まったく褒められた気分になりません。もちろん、モチベーションも上がらないのでしょう。

もし、5段階評価を設けるなら、私は「SS(スペシャルすごい)」「S(すごい)」「A(ありがとう)」「B(挽回しましょう)」「C(かなり挽回しましょう)」とします。そして、中間の「達成」を「A」にします。達成してくれて「ありがとう」なのです。

・5段階評価の例

評価評価基準
SS(スペシャルすごい)組織を超えて、よい影響を与えている
S(すごい)周囲に、よい影響を与えている
A(ありがとう)目標を達成している・できている
B(挽回しましょう)目標に届いていない・一部できていない
C(かなり挽回しましょう)目標を追っていない・まったくできていない

「A」「S」「SS」の差も明確にしておきましょう。基準としては、その働きに対する影響力の大きさを考えるとよいと思います。「A」までは、個人の領域内ですが、「S」は「周りにも影響を与えている」。「SS」は、「組織を超えて影響を与えている」というイメージです。こうすることで、必要以上に「SS」評価が並ぶ、といった評価のインフレが起こることはなくなります。

人事評価は、“褒める”しくみです。だからこそ、できていることは、しっかり評価しなくてはなりません。それが、人を育てるベストな人事評価制度だと私は思います。

後編:人事評価制度の作り方④作成した評価制度が機能しない【第4回 人事のプロに聞く】

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この記事の著者

西尾 太
フォー・ノーツ株式会社 代表取締役社長
「人事の学校」主宰
人事コンサルタント
https://www.fournotes.co.jp/

1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。