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若き採用担当の悩み②新卒採用の採用計画の立て方【第2回 採用賢者に聞く】

採用コンサルタントとして全国から相談が寄せられている、株式会社アタックス・セールス・アソシエイツの酒井利昌氏。前回は、新卒採用の目的と成功のためのノウハウについてお話しいただきました。今回は、採用活動の中でも特に酒井氏が重視している「採用計画」について、掘り下げて伺いしたいと思います。採用計画を立案する際の要点や、陥りがちなミスなども解説していただく、いわば“実践編”です。

前編:若き採用担当の悩み①新卒採用とは?【第1回 採用賢者に聞く】

採用計画は、学生へのメッセージ

―採用担当者の業務内容は大きく5つに分かれていると思います。そのなかで、「計画」というパートが重要視されている理由を教えてください。

まず、採用担当者に任されている大きな5つの業務内容を挙げてみましょう。

・計画
・募集
・選考
・フォロー
・進捗に合わせた改善

この5つの詳細については前編をご覧ください。ただ順番に項目をこなしていくのではなく、PDCAサイクルを回し続けることを忘れないようにしましょう。

また、ここに挙げた5つの優先度や比重は同じではないことも覚えておきましょう。採用における「計画」は、会社の経営戦略を実現するための計画であり、後の採用活動を効果的、かつ効率的に進めていくことにつながります。そのため、ここがブレてしまうと、採用した人材と経営戦略にアンマッチが生じ、事業に大きな支障をもたらします。また、採用計画は「会社がこうなりたいから、こういう人材がほしい」という学生に向けたメッセージでもあります。その発信内容がぼやけていると、会社の魅力が伝わりきらず、結果として採用も失敗することになるでしょう。

そうならないためにも、以下の5つの項目は入念に検討、実施しなければならないのです。

1.Why:採用目的の整理
2.Who:人材要件(求める人物像)および人数の設定
3.What:入社者に提供できる便益の言語化
4.When:選考プロセス、スケジュール、実行者の設定
5.How:募集手段の選定

採用の3要素は「必要性」「人材要件」「時期」

―採用計画はどのような要素によって構成されていますか。

要素としては、次の3つです。

1.採用の明確な目的
2.どのような人材が必要かの整理
3.いつまでに採用するかのスケジューリング

(1)について、そもそも要員計画には「採用」のほか、「配置転換」「育成」「外部委託」といった手段もあります。社内に適した人材がいれば、手っ取り早いのが「配置転換」です。もしくは、時間は多少かかりますが「育成」も安定感があるでしょう。「外部委託」はコストがかかりますが、中長期的には有効な方法かもしれません。このようにそれぞれのメリット・デメリットを鑑みて、「採用」という手段を選ぶかどうかを検討する必要があります。

(2)について、どのような人材を採用するかを検討する際には、2つのアプローチがあります。一つは、将来の会社のあるべき姿を考えて、必要な人材を絞っていく演繹的なアプローチです。もう一つは、今活躍している社員から自社で活躍する人材を定義し検討していく帰納的なアプローチです。これらの2つのバランスを取りながら、必要な人材の要件を洗い出していくことをおすすめします。

要件を洗い出したら、優先順位(must/want/ネガティブ/不問)をつけましょう。このときのコツは、スキルとしてすでに顕在化していてほしいもの(must)を採用基準として優先することです。入社してから育てられる潜在的なスキル(want)については、優先度を下げても構いません。この工程を経て、ペルソナ設定と採用人数を決定していきます。

一方、トップダウンで「○○人の採用をしてほしい」と目標が降りてくることもあります。そのときも、「どうしてその人数が必要なのか、それによって何を実現したいのか」を採用担当者が腹落ちしなければなりません。そのため、トップと膝を詰めて話していくことが必要でしょう。

(3)については、採用までの期限や選考プロセス、日程、実行者を設定してください。入社者となる学生は、3月に卒業します。理系の学生ならば卒業研究の忙しい時期を避けたり、就職活動の取り掛かりが早かったりなど、相手のスケジュールを踏まえて検討する必要があります。その上で、「△△月から開始して××月までには〇〇人を選考しておかなければならない」というように逆算して具体的な数を出していくようにしましょう。

関連記事:採用計画の立て方と重要な5項目!採用活動を成功させるコツ

社内コンセンサスと事前の課題分析に重点を置く

―採用計画を立てる前の準備段階でやるべきことを教えてください。

まずは、採用目的(なぜ採用するのか)について社内でコンセンサスを取ることが重要です。採用活動は、他部署との連携や協力のもとで進められます。今回の採用計画が、どのような経営戦略に基づき、その実現のために立てられているのか、その目的を周知徹底して承認を得ることがスムーズな活動へとつながります。採用目的を経営戦略と照らし合わせて考えるとき、情報の拠り所としては、中期経営計画などの事業計画が挙げられます。

採用活動のPDCAサイクルを回すために、これまでの採用活動における課題の分析も不可欠です。採用活動は、「集める」「見極める」「動機づける」の3つのフェーズに分かれます。そのどこに課題があったのか、過去のデータをもとに分析して、次の採用計画に生かすことが大切です。過去データの具体的な項目としては、応募人数、受験率、書類通過率、筆記試験通過率、面接通過率、途中辞退率、内定辞退率、入社後のパフォーマンスなどが挙げられます。 なお、採用計画を立てる段階では、競合他社の調査をすることは、おすすめしません。そもそも、この段階では人材要件がまだ固まっていないので、「求める人材が自社と他社をなぜ比較検討するか」を明確にできず、競合他社を絞りきれないからです。また、採用においては競合他社が同業者のみとは限りません。たとえば、「社会貢献したい」と思っている学生は、メーカー、官公庁、金融、メディア、医療福祉など業種を横断して検討する可能性があるからです。競合他社を十分に調べようとすると、採用担当者だけでは限界があります。そのことからも、人材要件が固まったあとで、人材紹介会社や求人媒体会社から情報収集したほうが、労力を抑えられるのでおすすめと言えるでしょう。

―調査や現状把握の精度を高めるコツはありますか。

採用活動のPDCAサイクルを回していくためにも、分析のもとになるデータ(応募者数、選考参加率等)は、いつでも振り返れる仕組みにしておきましょう。これらは日々の集計で残せるものなので、それほど難しくありません。このような定量的な情報の集積が、採用課題の分析の基本です。たとえば、内定率承諾率が低ければ、「動機づけに課題があるのでは?」というように、課題を特定しやすくなります。

使用するツールは、少人数の候補者集団から採用するのであれば表計算ソフトで十分です。一方、大人数の候補者集団を形成している場合や、新卒採用と中途採用を限られた採用担当者で実施する場合であれば、工数が膨大になるので採用管理システムで情報を集積することも検討してください。

課題を特定できたら、そこから掘り下げていきましょう。内定率が課題であれば、内定辞退者に対して「内定を承諾しなかった理由は?」というようなヒアリングを実施して、原因分析を進めます。しかし、当事者である採用担当者からのヒアリングでは、相手にさまざまな心理的バイアスが働き、なかなか本音を語ってはくれないでしょう。これは、お互いの信頼関係が相当できていないと、非常に難しいと思います。そのため、就職情報会社やエージェントなど第三者の調査機関の利用を検討してみてもいいかもしれません。

いずれにしても、新卒採用は毎年同じことを漠然と繰り返すのではなく、前年までのデータや課題を振り返り、改善していくことが大切です。そうすることで、採用成功の再現性は高まります。常に新しい情報をキャッチアップしながら、挑戦し続けることが成功の秘訣だと言えるでしょう。

5つのステップで、自社分析とアウトプットを実施

採用計画を立案する際の具体的な手順を教えてください。

採用計画は、次の5つのステップで構成されています。

1.採用目的の整理(Why)
2.人材要件(求める人物像)および人数の設定(Who)
3.入社者に提供できる便益の言語化(What)
4.選考プロセス、スケジュール、実行者の設定(When)
5.募集手段の選定(How)

1.採用目的の整理(Why)

創業当時の代表の思い(過去)、クライアントから選ばれている理由(現在)、これからの展望(未来)といった3つの切り口で考えることをおすすめします。それらをもとに、部門部署ごとに「なぜ採用する必要があるのか」を言語化していくのです。

2.人材要件(Who)

(1)を受けつつ検討していきます。帰納的なアプローチで具体化するためには、ハイパフォーマー社員の分析が有効でしょう。彼らが持つ能力や性格、志向を抽出して、分析します。また、インタビューも有効でしょう。「入社理由」「働いている動機」「将来の目標」といったパーソナルな軸で整理していくと、共通の価値観などが浮かび上がり、求める人材像が明確になります。一方、演繹的なアプローチで具体化するためには、自社には存在しないわけですから、事業内容や組織を分析し、求める人物像を導き出させねばなりません。ポジショニングマップを活用し、「どのような人材が加われば、より良くなるか」「現状で不足しているのは、どういった人材か」を客観的に検討していくと、求める人物像が明確になります。

3.入社者に提供できる便益の言語化(What)

いわば(2)の人材へのラブコール、自社の魅力を言葉にするプロセスです。しかし、便益の言語化は意外と難しいもの。社内にいると、自社の良さや大切にしている価値観は共通言語化され、無意識のうちに省略化されてしまいます。そのため、「学生はまっさらな状態」「自社の価値観など、すべて情報は初めて耳にするもの」と考えて言語化する必要があります。

4.選考プロセス、スケジュール、実行者の設定(When)

アピールしたいメッセージの「どれ」を「いつ」「誰が」伝えるのかを決めます。求人票で伝えられること、説明会で伝えられること、面接の場で伝えられることはそれぞれ異なります。タイミングと実行者によって、メッセージの伝わり方やインパクトも変わってくるので吟味しましょう。(1)や(3)のステップで作成したことが、学生に提供する具体的な情報(コンテンツ)となるのです。

5.募集手段の選定(How)

作成した情報(コンテンツ)を、どのような媒体でアウトプットするかを決めるプロセスです。採用人物像(Who)へのメッセージ(What=コンテンツ)をどのメディアを使って発信するかを選定することです。採用がうまくいかない会社は総じて、(1)~(4)のプロセスを曖昧にして、(5)から始めてしまいます。しかし、(1)~(4)を明確にしていれば、(5)は選定しやすくなるでしょう。

採用活動(就職活動)は、企業と求職者のマッチング活動です。しかし、両者には「情報の非対称性」が発生しています。就職によって学生の人生は変わります。だからこそ、採用する側の情報量がアンフェアな状態では、あまりにも無責任です。情報量の不均衡をできるだけ少なくし、学生に正しくジャッジしてもらえるようにしてください。そのためにも、まずは上記を踏まえて、企業側から情報を開示する必要があるのです。

―採用計画を立案する際の注意点を教えてください。

避けたいのは、「人手が足りないからとりあえず募集しよう」というケースです。つまり、(1)~(4)を深く考えず、(5)から採用活動をスタートしている “失敗の王道”ケースです。採用がうまくいかない理由は募集手段(メディア)ではありません。コンテンツ(中身)なんです。コンテンツが正しく伝わらなければ、膨大に存在する求人情報の一つにしかならず、求職者に興味を持たれないどころか、埋もれて認知すらされないでしょう。また、(5)からスタートすると、課題改善の手立てとして「募集手段を変える」という選択しかできなくなります。行きあたりばったりで、PDCAサイクルを適切に回せなくなります。

計画立案の基本は「客観視」です。採用活動は、ターゲットとなる人材に会社の価値(=コンテンツ)をどれだけ伝えられるかが勝負です。そのため、自社分析(価値観、歴史、社員情報、ハイパフォーマーの特徴など)は当然必要になります。しかし、それだけでは足りません。市場(競合情報、学生情報)を研究して、どれだけ求職者の視点を持てるか、つまり「客観視」できるかがポイントとなるでしょう。ただ、そうは言っても、社内のメンバーだけでは主観が入り、客観視するにも限界があるはずです。そんなときは、我々のような採用支援のプロなどの第三者の視点も交えながら、採用計画を立てることをオススメします。

最後に、採用担当者にメッセージをお願いします。

採用活動には、他社の事例をキャッチアップし、学び続けることが求められます。しかし、採用活動の原理原則をわかっていないと迷路に入り込んでしまいます。だからこそ、今回の話が、今後の採用成功にむけたひとつの道標になればと思います。

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この記事の著者

酒井 利昌
株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ
採用コンサルタント
https://attax-sales.jp/

『いい人財が集まる会社の採用の思考法』著者。学習塾業界、人材サービス業界を経て、現職。営業コンサルタントとして現場指導に従事するとともに、採用コンサルタントとして活動。採用がうまくいかないことが成長のボトルネックとなっている企業が支援対象。 独自の営業・マーケティングノウハウを転用した採用力強化メソッドは、15ヶ月間、採用できなかった中小企業を2ヶ月間で成功に導くなど実績多数。「人の力を源泉に成長したい」全国の企業からのオファーが絶えず、無料で採用相談を受けることをライフワークにしている。