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若き採用担当の悩み①新卒採用とは?【第1回 採用賢者に聞く】

経営戦略に人的資源の側面から貢献する人事部。その業務内容は、多岐にわたり、専門性も高いものです。なかでも、ポテンシャル採用の新卒はジャッジが難しく、人事部独自の採用フローなどがある企業も少なくはありません。そこで今回は、採用コンサルタントとして全国から相談が寄せられている、株式会社アタックス・セールス・アソシエイツの酒井利昌氏にインタビュー。新卒採用の目的と成功のためのノウハウについてお話しいただきます。

即戦力でない「新卒」が、企業成長に貢献する

―新卒採用は、なぜ企業で重要視されているのでしょうか。

人員を確保しやすいからです。数十万人の学生が「一時期に」「一斉に」就職活動を行うことが一般的なため、企業が人員を確保しやすいタイミングが新卒採用時と言えます。人材業界では一般的に、企業が買い手、学生が売り手と言われていますが、新卒採用はたとえるなら“セール期間”です。「若くて伸びしろのある優秀な人材が、初任給というオトクな価格で一斉に売り出されてますよ」といったイメージです。

また、新卒採用で人員の確保をきちんとしていないと、積み上げてきた人材ピラミッドを崩してしまう可能性もあります。景気が悪化した時期に新卒採用を抑制した会社が、景気回復後、気づいてみればノウハウや技術の継承に四苦八苦しているという例もよく見受けられます。そのようなことを鑑みると、今後も新卒採用という枠はなくならないでしょう。

一方で、通年採用の活発化や人材の流動性の高まりを受けて、「新卒枠」にこだわらない採用が一般化していくことも考えられます。しかし、新卒採用は効率がよいのでトレンドとして残り続けるとも予測しています。

―新卒採用を実施する一番の目的を教えてください。

既存の社員に成長環境を提供することが大きな目的です。新卒社員は初めて社会人となるわけで、右も左も分からない「無意識的無能状態」です。既存の社員は、そんな新卒社員に対して、会社のルールや業務内容などを一から教えなくてはなりません。この教えるというプロセスこそが企業成長の源泉です。分かりやすいように家族に例えてみましょう。弟や妹ができることで、上の兄姉が成長していきます。企業も同じです。既存の社員は新入社員が下に入ることで否応なく成長を促されます。新卒採用は、まさに会社にとってのカンフル剤なんです。

これは、アメリカでビジネスコンサルタントとして活動していたロバート・ディルツ氏が体系化した「ニューロ・ロジカル・レベル(Neuro logical level)」という理論で説明できます。この理論によると、人間の意識構造を上から「アイデンティティ」、「信念・価値観」、「能力」、「行動」、「環境」という段階分けしたピラミッドで表現します。それぞれのレベルは互いに影響し合い、各階層に変化があると、他の階層にも変化が現れます。
社内でのマネジメントの場面では、上司は、まずピラミッドの底辺に位置している「環境」を整え、メンバーの「アイデンティティ」「信念・価値観」「能力」を承認した上で、「行動」にフィードバックします。行動が変われば、能力も向上し、信念・価値観、アイデンティティに影響を与えていきます。(環境→行動→能力→信念・価値観→アイデンティティ)
一方、採用の場面では、ピラミッドの上から下へ影響を与えるアプローチです。つまり、新入社員が入り、先輩社員になるということは、その人のアイデンティティが変わるということです。それが信念や価値観を変え、能力を高め、行動を変えて、最終的には環境=組織・企業へと影響を与えていくという構図になっていきます。新入社員は即戦力にはなりませんが、彼らの存在によって、既存の社員の成長は著しく促されることになるのです。

参考図/ニューロ・ロジカル・レベル

―新卒採用を実施するメリット・デメリットについて教えてください。

メリットとしては、先ほど挙げた「企業成長が期待できること」のほかに、「企業文化にあった人材を育てられる」という点です。カルチャーフィットという言葉がありますが、これは企業文化や社風に適しているかどうかを指しています。このカルチャーフィットが高いと、会社への定着率は高くなります。能力は育成できるので後天的に高めることができますが、カルチャーフィットは社会人経験が長く他の会社を知っていればいるほど、高めるのが難しくなります。その点、新卒採用の場合、新入社員にとって入社した会社の文化は「自分にとってのスタンダード」であるため、カルチャーフィットが高まりやすいという側面があります。

デメリットとしては、二つあります。一つは、成果が出るのに時間がかかることです。たとえば、プロ野球でドラフト1位に指名された選手でも、プロの世界で技術的、体力的に通用できる選手はほんの一部でしょう。その選手に伸びしろや可能性があることを前提に育てる意識を持って指名をします。新卒採用も同じと考えると分かりやすいかもしれません。

もう一つは、入社後のミスマッチです。中途採用の場合、その能力に対して実績というエビデンスを確認することができます。しかし、新卒採用は可能性の世界です。学生時代に取り組んできたことなどをもとに、成長後の活躍を推測するしかありません。そのため、ミスマッチの可能性が高くなる傾向にあります。

関連記事:新卒採用とは?新卒を採用する5つのメリットや最新動向

企業は「質」、学生は「人」を重視

―新卒採用のトレンド・最近の傾向はいかがですか。

リクルートワークス研究所のレポート「ワークス大卒求人倍率調査(2022年卒)」によると、直近の22年卒の大卒求人倍率は、1.50倍。コロナ禍以前の19年卒の1.83倍を下回り、買い手市場のトレンドとなっています。

21年卒からこの傾向が顕著になっていることからも、新型コロナウイルスによる影響と考えて相違ないでしょう。具体的には、中小企業が新卒採用を見送りはじめ、求人総数が減ったことが一因となっています。さらに、そこに加えて、民間企業を志望する学生が増えました。「将来性がある(と思える)大手企業に就職したい」という安定志向が、志望者数を押し上げていると考えられます。

企業側のトレンドとしては、「量」から「質」へと移っています。「2021年卒 マイナビ企業新卒内定状況調査(10月1日時点)」 によると、内定者の「質」に満足している企業は、量が足りなくてもそれ以上は追わないという採用の傾向が見受けられました。私のところにも、「よい学生を見極めるポイントを知りたい」という相談がクライアントから多く寄せられており、「質」重視の傾向を日々実感しています。

この「質」重視の傾向は、景気の悪さが影響していると言えるでしょう。内定者の「質」を上げて、生産性を高めていきたいと考える企業が増えたと考えられます。

一方で、学生のトレンドは、「人」「社風」重視の傾向が強くなっています。大学生・大学院生が内定先を決めた理由については、株式会社学情によってインターネット調査が行われました。 それによると、21年卒では、「携わる仕事内容」「事業内容」「人」が内定先を決めた理由として上位を占めました。さらに22年卒では「携わる仕事内容」「人」「事業内容」の順となっています。これは、コロナ禍の影響で、オンライン面接が増えたためと考えられます。以前のように面接などで企業を訪問するチャンスが減り、接することができた数少ない「人」が企業の顔・イメージになったのでしょう。このことからも、学生と接することの多い採用担当者が、彼らの心をガッチリつかめると、大きな動機づけになると言えます。

進む早期化。1年を通じて動き続けている採用担当

―新卒採用にあたり学生のスケジュールはどうなっていますか。また、コロナ禍での変化はありましたか。

これまでの採用スケジュールでは、経団連が倫理憲章を設けて、学生の本分である学業を守るため、学校と紳士協定を結んでいました。しかし、経団連が倫理憲章を取っ払ったので、決まった就活スケジュールは崩れつつあります。それでもなお、政府や学校はスケジュールに関与しており、公のスケジュールとしては、大学3年生の6月~8月ごろから夏のインターンシップがスタートし、秋・冬のインターンシップを経て、3月に情報解禁、6月に選考解禁、10月に内定解禁となっています。

ただ、水面下は無法状態です。各社は独自の動きで学生の囲い込みをしており、年々スケジュールを早期化させているようです。株式会社ディスコ社の「2022年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」によると、9割以上の企業が6月の選考解禁より前に面接を開始しているようです。3月までに面接を行っていた企業が過半数で、なかでも3月中旬が最多と報告されています。また、実質的な内定出しは、4月下旬が最多でした。また、大学3年生の6月のインターンシップが、選考の場となっている企業もあるそうです。内定こそ出しませんが、その場ですでに見定めている状況と言えるでしょう。

―新卒採用の採用担当者のスケジュールについて教えてください。

中小企業の例で見てみると、6月~7月ぐらいに前年度の採用の見通しをつけ、そこから次年度の採用活動を準備。7月~8月の夏のインターンシップが最初のイベントとなります。並行して、10月1日の内定式までの間は、前年度の内定者フォローが続いています。

夏のインターンシップの後は、ダイレクトメールやオファーメールで秋・冬のインターンシップへの誘導を実施。10月~翌年2月にかけて、インターンシップの開催。3月に大手ナビサイトの解禁となっています。

4月は選考が進んでおり、求人サイトから流入した学生に一気に対応している時期です。この時期は選考のための面接のセッティングが、採用担当にとってもっともパワーが必要な作業と言えるでしょう。この忙しいさなかに、新年度ということで新卒採用の部署に配属される新任担当者も多く、バタバタと雑務に追われることになります。

このように、新卒採用に関しては一年を通じて常に何かが動いているという状況なんです。

採用にとってすべてが必要不可欠。多岐にわたる業務

―採用担当者が行う業務にはどのようなものがあるでしょうか。

大きく次の5つが挙げられます。特に重要なのが、1つ目の計画となります。

・計画

①採用目的の整理(Why)
②人材要件(求める人物像)および人数の設定(Who)
③入社者に提供できる便益の言語化(What)
④選考プロセス、スケジュール、実行者の設定(When)
⑤募集手段の選定(How)

・募集:集める

例えば、ナビサイト掲載、自社採用サイト構築・更新、会社説明会開催、ダイレクトリクルーティング、人材紹介などが含まれます。

自社のことを知ってもらわないことには始まりません。自社が採用したい人材はどのような方法で企業情報を得ているか調査した上で、集める方法を検討する必要があります。

・選考:見極める

例えば、適性検査受検依頼、面接評定シート作成、面接官との認識合わせ、面接実施、内定出しなどが含まれます。

採用基準に照らして、上回っているかどうかを客観的に判定していくことが必要です。ただし、心理的バイアスが働きますので、それを前提に、適切な人材かどうかを見極めていくことが求められます。

・フォロー:動機づける

例えば、選考前後に連絡、内定者に定期連絡、社員と話をする場の設定、内定者懇親会開催などが含まれます。

志望動機は、これから会社を受けようとする人と面接をする社員が一緒になって作っていくものです。説明会や面接等で接点を増やすなかで、徐々に具体度を上げていきたいところです。

・進捗に合わせ適宜取組を改善

例えば、求人票の見直し、説明会の追加開催、募集手段の追加などが含まれます。

PDCAサイクル回し続けることが、採用の一連の業務です。業務内容は多岐にわたりますが、一つひとつが関連しあっているため欠かすことができないと言えるでしょう。採用活動のプロセスを分解し、全体をふかんして進捗を管理してください。

詳しくは、『いい人財が集まる会社の採用の思考法』/酒井 利昌 著をご参照ください。

伝えたい自社の「価値」。トップセールスのマインドが、採用にも生きる

―新卒採用担当者として知っておくとよいことや学んでおいてほしいこと、日々インプットすべき情報などがあれば教えてください。

まずは、自社分析(価値観、歴史、社員情報、ハイパフォーマーの特徴など)です。これができていないと、学生に動機づけとなる材料を提供できません。たとえば、自社はどんなことを大切にして事業をしてきたのか、既存の社員がなぜ自社に入社したのか、この先のキャリアプランはどうなっているのか、といった情報を収集し、頭の中を整理しておくとよいでしょう。

また、市場研究(競合情報、学生情報)も必須です。他社と自社を差別化するポイントはどこなのか、学生がどのような基準で企業を選んでいるのかを把握し、対策を練る必要があります。

そして、これらの情報源として最も有効なのは、採用活動を通じて接点のあった学生や直近に入社した社員からのヒアリングです。次に有効なのは、他社の採用担当者によるネット発信情報と言えるでしょう。他社事例を常にインプットできるように、サイトをブックマークする、コミュニティ(FacebookやTwitterなどのSNS)に入っておく、といったこともおすすめします。特にTwitterは、学生への情報提供として利用する採用担当者も多く、他社の動きが見えやすくなります。採用担当者は、社内でチームを組んで活動をしない場合はどうしても孤独になりがちです。Twitterはときどき他社の採用担当者の本音も垣間見えますので、勇気づけられることも多いと思います。

これらを踏まえた上で、採用担当者には次のようなベーシックスキルも必要です。

・採用市場を知り、働きかけるための「マーケティング」
・学生の心を掴む「心理学」
・プロモーションに必要な「コピーライティングやプレゼンテーション」
・学生から経営陣まで幅広くニーズを聞き出す「ヒアリング」

タスクが多岐にわたり大変な職務ですが、そのぶん、成長できると信じて前向きに取り組みましょう!

―新卒採用担当者として持っておきたいマインドはありますか。

ズバリ、「営業」マインドです。私は、「採用活動=候補者の人生の目的(あるべき姿)を知った上で、自社に入社した後に得られる価値を伝える活動」と定義しています。営業活動は「お客さまのあるべき姿を知った上で自社商品を提案する活動」ですから、ベースは同じです。トップセールスが採用担当者になった途端、その企業の採用活動が成功したケースをたくさん見てきましたが、それは偶然ではないと思っています。トップセールスはお客さまのあるべき姿を知った上で自社商品を提案するので、お客さまから厚く信頼されています。だからこそ、再現性が高く、成果も生まれるのです。それと同じことが、採用活動にも言えます。

ただ、採用目標達成のためと言って、数集めが主眼になってはいけません。そうなると、学生をなんとか口説いて入社させるという、目的のために手段を選ばないという状況に陥ってしまいます。私たちにできるのは、「価値」を伝え、納得して選んでもらうことです。学生は人生の岐路に立っています。彼らが今まで生きてきたなかで築いた価値観や選択を踏まえて、伴走する姿勢をとることこそが、新卒採用を行う企業にとって一番大切なことではないでしょうか。

なにより、経営資源の一つである「ヒト」を獲得する「採用力」は、経営の源泉です。そして、その採用担当者は取り組み方ひとつで、「会社の未来を創る存在」にもなれます。迷い悩むことがあれば、一人で抱え込まず、先輩や社内を巻き込むことが早い成長と解決にもつながっていくのではないでしょうか。

後編:若き採用担当の悩み②新卒採用の採用計画の立て方【第2回 採用賢者に聞く】

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酒井 利昌
株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ
採用コンサルタント
https://attax-sales.jp/

『いい人財が集まる会社の採用の思考法』著者。学習塾業界、人材サービス業界を経て、現職。営業コンサルタントとして現場指導に従事するとともに、採用コンサルタントとして活動。採用がうまくいかないことが成長のボトルネックとなっている企業が支援対象。 独自の営業・マーケティングノウハウを転用した採用力強化メソッドは、15ヶ月間、採用できなかった中小企業を2ヶ月間で成功に導くなど実績多数。「人の力を源泉に成長したい」全国の企業からのオファーが絶えず、無料で採用相談を受けることをライフワークにしている。